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デンマークの街に貼られているステッカーに着目して得た考え

デンマークのオーフスという街での留学生活が開始してから2ヶ月以上。
現地に到着して、初めて街の中を歩き回った時から常に目に入ったのがステッカーでした。ヨーロッパなどの外国の街中で落書きやステッカーが貼られているのを見かけることは凄く多いですが、その一つ一つに注目して見ることは滅多にないと思います。

デンマークは選挙での投票率の高さや政治参加の活発さで注目されることもあります。街で見かけるステッカーの多くも社会問題に対しての様々な主張を含むことが多いです。オーフスという若者の街で見かけるステッカーを通して、特にデンマークの若者が関心を寄せるトピックやその主張が理解出来るのではないかと思いました。
そこで今回は街で見かける様々な主張を含むステッカーに着目し、そこから個人的に考えたことを書きたいと思います。


<デンマーク・オーフスという街>

まず、今回ステッカーに着目して歩き回った街についての説明です。
オーフス(Aarhus)はデンマークのユラン島の東岸に位置する街であり、首都のコペンハーゲンに次ぐ第2の都市です。オーフスという街はバイキングの時代から続く歴史ある土地であり、有名な観光地が多く存在しますが、その中でも大きな特徴として街全体の平均年齢の若さが挙げられます。大学が多く立地し、学生の多くがオーフスにある寮で生活をしていることや、留学生がたくさん生活していることもあり、住人の平均年齢がデンマーク内で1番若い街です。

ステッカーは基本的に街全体で見つけることが可能でしたが、特に街の中心部や少し栄えた通りの端にある抜け道などで多く発見することが出来ました。


<トピックごとのステッカー分類>

街を歩くと大量のステッカーを発見することが出来ました。その中でも5つのトピックにまとめることが出来たので、、見つけた量の多かったトピック順にそれらを紹介したいと思います。

①気候変動(Climate Change)


まずは、気候変動についてのステッカーです。
1つ目のステッカーには”extinction rebellion”と記されており、これは環境に悪影響を及ぼす政府の行動に対して非暴力で対抗する市民社会運動の1つです。これはデンマークだけでなくイギリスなど様々な場所で行われている運動であり、気候変動に対しての関心の強い国であれば、このステッカーを見かけることがあるかもしれません。

また2つ目のステッカーは英語で “REBELLION OR DEATH” となり、最後のステッカーは “STOP POLLUTION!”という文言とイラストから大気汚染に関しての主張を含んでいます。


今回ステッカーを見て歩く中で、この気候変動に関してのステッカーが1番多く目に入りました。絶滅(extinction)や反乱(rebellion)などの言葉からも伝わるように、気候変動についてどれだけの意識や強さで主張しているのかも感じられます。

デンマーク政府は今年6月に気候変動に対する政策を最優先すると発表し、2030年までにCO2の排出量を70%削減することを目標に掲げたそうです。

私自身デンマークに到着してから、9月の気候変動ストライキなど様々な機会でデンマーク・オーフスの人々の気候変動に対する関心の強さを強く感じることが多くあります。

②菜食主義(Veganism) 


2つ目は菜食主義についてのステッカーです。
1つ目のステッカーでは「菜食主義の持続可能性や動物保護、健康面などのメリットには中毒性がありリスキーだ」と、少し皮肉った形で菜食主義の良さをアピールしています。

2つ目以降のステッカーでは、イラストを使って動物保護の面から菜食主義を促すような主張だと考えられます。


菜食主義もデンマークでは関心の強いトピックであり、デンマーク内で14万人もの人(人口の2.4%)が菜食主義(ベジタリアン)だと言われています。日本での私の環境では、菜食主義で生活している人に出会うことは多くありませんでしたが、デンマークの学校では友人の何人かが菜食主義だと言っていました。またステッカーとは少し異なりますが、街の中で菜食主義を訴える看板を持った人たちを見かけることもたまにあります。

③平等(Equality)


3つ目のトピックとして平等性が挙げられます。
最初のステッカーは英訳すると “USE YOUR FREEDOM TO GIVE OTHERS” となり人権についての主張がされています。また2つ目は虹色のステッカーであり、全てのジェンダーに置ける平等を主張しています。最後のステッカーはTALK TOWNというデンマーク内でジェンダー、平等、フェミニズムについて語り合うイベントのポスターです。TALK TOWNはオーフスだけでなくコペンハーゲンやコリングなどデンマーク内の色々な都市でイベントを定期的に開催しています。


最初のトピックで紹介したようにオーフスには様々な人種の人がいることもあり、同じく平等についての関心も強いのだろうと考えられます。また平等性については他の様々なトピックも強く結びつき、LGBTQ+の権利などジェンダーに関連するものや女性の権利を主張するステッカーも多く見られました。

デンマークの方との会話の中でも、彼らが平等性をデンマークの良い点として認識していることが強く感じられます。実際に、デンマークでは2012年から同性間での結婚が法的に認められており、男女両方に置ける雇用の割合も男性が75.6%、女性が72.6%と大きな差が見られません。

実際にデンマークで生活していると、子どもを連れて自転車を漕ぐ男性を見かけることも多くあり、社会の平等性が保たれていることを感じることが少なくありません。

④人種差別(Racism)


続いて、人種差別についてのステッカーです。
左のステッカーはデンマーク語ですが、英訳すると “OPEN BORDERS - YES PLEASE”となります。2つ目のステッカーには”ONE WORLD - NO RACISM - NO FASCISM”と記されています。


デンマークとオーフスのどちらにおいても、人種差別に対しての関心は大きいと言えます。
デンマークには移民など外国から移住してきた人の割合も大きく、全体の12.3%と言われています。オーフスも第2の都市であり多くの人が街に在住していますが、その内の15.9%が外国からの住民であり、更にその中の11%が西欧外からの移民だと言われています。

学校内の留学生が多いこともあり、オーフスの街で様々な人種の人を見かけることは珍しくないです。このような環境から、人種差別についてのステッカーを多く見かけたのかもしれません。

⑤反ファシズム(anti facism) 


最後のトピックは反ファシズムについてです。
このトピックに関してはイラストや色を文字よりも使っていることが多く、割と視覚的にも分かりやすいステッカーとなっていました。ステッカーを3枚載せておきます。


このトピックは正直日本ではあまり馴染みがなく、生活で触れる機会が少ないかもしれません。デンマークは第二次世界大戦においてファシストによる占領が行われた歴史があり、そのことから今もなお人々の関心を寄せるのかもしれません。

<日本との比較>

これらのステッカーからトピックごとに分類してみると、日本では余り話に上がらないトピックなども多く目にすることができ、大変興味深かったです。

日本での社会問題などに対する主張は、基本的にはSNSによる発信や街頭での人々の運動が主流かと思います。正直、日本などではストライキやデモなどの社会運動に対して恐怖や不安などマイナスなイメージを持たれることが多いですが、ステッカーを通したイラストや色による主張だと分かりやすく、注目して歩くだけでも面白いと感じました。またSNSや街頭での運動のように興味が薄い人には伝わりにくい方法と比較しても、ステッカーは街など身近で目に入りやすいところに存在しています。こういった身近さがデンマーク人の社会に対する関心の強さと大きく関連しているとも考えられます。

デンマークにはヤンテの掟という価値観が存在し、“自分が他者よりも優れていると思うな”という集団内における価値観となっています。デンマークでもストライキなどによる意思表示は行われますが、このようなステッカーによる面白い形での主張はヤンテの掟という価値観によるものなのかもしれないと考えました。

日本人の中でも周りの目を気にして他者を理解しようとする感覚はヤンテの掟と少し似ていますが、それによって日本人は必要以上に意見を主張することに遠慮がちになることもあります。一方でデンマークのヤンテの掟の理解では、他者を気にすることが異なる主張に対しての寛容な姿勢に繋がり、誰もが自らの主張を遠慮なく表現できる環境に繋がっていると考えられます。

街中に貼られている多くのステッカーもそのような多様な意見の共存を表しており、ヤンテの掟の価値観から、ステッカーという日本では見ることの少ない形での表現方法を生み出したのかもしれません。

<まとめ>

今回ステッカーに着目して街を歩くことで、デンマーク人の関心が寄せられるトピックを見つけることが出来ました。



またトピックを理解するだけでなく、ステッカーを細かく見ることでイラストや言葉から人々の関心の強さや主張が読み取れました。純粋なステッカーの量から人々の関心の強さが読み取れますし、さらに色使いやイラスト,言葉遣いからトピックに対する危機感や立場がよく読み取れました。

デンマークは日本でも平等性や社会的調和などの観点で注目されることが多いです。ステッカーという、身近に感じつつも強すぎることのない形で意見の発信がデンマークらしく、それらが社会の良い面を支えているのかもしれません。

日本の街でもステッカーを貼れば良いということは全くありませんが、日本とは投票率などの面で大きく異なるデンマークから、市民間での主張の仕方や政治との距離感など学ぶことや発見が多いのではないかと考えます。場所によってもステッカーの内容や雰囲気も異なると思うので、機会がありましたら是非みなさん意識的に目を向けて見てください。


この記事を書いた人

Yonezawa Arata
国際基督教大学。デンマークではÅrhus大学に留学中。異文化交流、キャリア教育やコミュニーケーションが関心分野。