わたしが生きたい社会ってどんなだろう?
そのヒントは、北欧にあるかもしれない。

わたしたちが北欧で見たこと、感じたこと、そして、語りたいこと。
大学生たちが現地よりお届けします。

フィンランドで3ヵ月過ごして感じた日本の違和感 - 12のメモ -

はじめに


フィンランドのアールト大学に留学して、現在4ヶ月が経ちました。
僕の専攻分野は、建築設計・ランドスケープデザインなのですが、アールト大学では環境・メディアデザインなども学び、生活の上で多くのフィンランド独自のシステムや思想に触れることがありました。

今回は、留学3ヵ月終了時に書いた、フィンランドで過ごして感じた日本の違和感を、①社会・教育、②環境、③文化の3つの観点から、12のメモとして共有したいと思います。




- 社会・教育編 -

1.男だらけの社会

最近日本でもニュースになったらしいですが、フィンランドでは、総理大臣や政党の代表を女性が務めています。これで僕が主張したいことは、別に男だらけであることの否定ではなく、女性に配慮して平等な機会を与える仕組みがあるべきだということです。

日本の女性は、社会的負担や考えるべき事が男性よりも多いと思います。

高校や大学を卒業して、就職後はキャリアを重ねる中で、国は少子高齢化で子を増やせといい、古い考えの人は「結婚して子どもを産むのが女性の幸せ!」などと言います。

いざ結婚し、子どもができるとなると、つわりが長期間続き、自由に動けない身体になり、産めば夜泣きが始まり、医療費等の考慮も少ない。職場復帰にも困難があるなど。これは、実際に僕の姉や友人の体験談の抜粋なので、色々と思うことがあります。

僕は主に大学にいるので、社会人事情は疎い部分があるのは否めませんが、フィンランドでは、少なくとも日本よりは女性の社会進出、男女ではなく自分らしさを考える傾向、男性の育児参加率は高いです。

これはデータではなく体感ですが、大学内の教員の男女比が日本と比較してイーブンに近い感覚です。僕は、主に建築・ランドスケープ・メディア・フィンランド語・文化史などの授業を受講していましたが、学生、教員共に男女に極端な偏りは無かったです。

上のグラフは、実際に文化史の授業でフィンランドと日本をデータで比較したものです。一番注目すべきは、Masculinity(直訳すると男らしさ)の差で、これが高いほど競争社会かつ、成功することに価値があり、自分らしさにはあまり価値を置いていないことを意味します。

これは一概に否定すべきではないですが、実際にこちらからその詳しい内容を見ることができます。仕事を完璧にこなす姿勢は評価しつつ、そのための長時間過酷労働などが女性が管理職につきにくいということに関係していると言及されています。
また、育児参加率に関しては、フィンランドは育児休暇取得率が80%を越えています。それでも、多くの男性が3週間しか取得していないことを問題視しています。(くわしくはこちら)

一方、日本では環境大臣が2週間の育児休暇を取ることに対して批判を浴びるなど、男性が育児に参加することへの考え方の違いが見られます。

2.LGBTへの配慮不足

補足するとトイレに関しては、トランスジェンダーの方のためのトイレもあるし、多くのトイレが男女関係なく利用できるものになっています。扉に、男女どちらのアイコンも書いてあるパターンがみられます。

フィンランドは、トイレだけでなく教育、仕事の現場でも男女平等という考え方が社会的に浸透しているため、性的マイノリティの方々も「男として」「女として」ではなく、「自分らしく」という考えのもと動きやすいのかと考えました。実際に、僕はファッション学科の学生と混じって講義を取っていますが、彼らは普段から男性らしい、女性らしいファッションではなく「自分らしい」ファッションを貫いていて、中性的なファッションなども堂々と着こなし、とてもかっこよく見えます。
また、周囲もそれに対して差別するのではなく、受け入れている雰囲気はあります。




下の画像が、ヘルシンキにあるデパート、ストックマンにあるピクトグラムです。
ピクトグラム以外にも
・男→青、女→赤 というカラーリングがないこと、
・男女平等に、ベビーシートがあることもフィンランドらしいなと思いました。





また、平面計画の配慮も行き渡っていて、全てのトイレは廊下から直接アプローチでき、トランスジェンダーだけ別の場所ということもなく、車椅子用のトイレと共同という配慮がなされていました。


3.勉強しない大人

僕が主張したいのは、就職後に「仕事以外」の教養を学ぶ余裕があるかということです。

就職後、定年まで勤めるということが多かった時代では、その仕事に関してはプロフェッショナルにはなれるかもしれませんが、それ以外の考え方や知識を勉強することが少ないのではと考えています。

フィンランドは、大学の授業料が無償ということもありますが、2つ以上の専攻分野の学士を取得する学生が結構います。

フィンランドは、日本よりも実力主義という一面もあり、結果として貪欲に物事を学び様々な知識を取り入れているのかもしれません。また、様々な分野を学ぶことによって、色々な学問に触れるとともに考え方の違いを知る素養を自然と身につけているのではないかと考えています。

別に、大学で学ぶことのみが勉強とは全く思ってませんが、社会人になってからも、別分野に対しても貪欲に興味を持って取り組む姿勢は日本では少ないのではと考えました。

そもそも、OO学部に入ってから、ほとんどその学部の単位しか取得しない学生も多いと感じている。僕も学部2年生以降は、建築系の授業しか取っておらず、それ以外の分野は敬遠していました。

4.大学のあり方

これに関しては、アールト大学は本当に恵まれていると思います。

自分のやりたいことが明確であれば、学生に必ずついているチューターに相談したり、工房にいるテクニカルスタッフにアポを取って相談すれば、機材の使い方や、関連ソフトの利用法まで教育する体制が整っています。

就活に関しては、日本のような新卒一斉就活が無いので、働きたいタイミングでアプライすることができたり自由度が高いです。その分、実力主義とタイミングによって就職先を見つけるのが困難という問題もあります。
逆に言えば、やりたいことのためには勉強して、実力を付けざるを得ない状況ともいえます。

大学に入学したのに、ほとんど勉強せずに「時期が来たから就活するか」という流れや、「就活のために色々参加してアピールしよう」という、見せかけの学生が増えている状況があまり好きでないので、もっと自由に学んだ上での実力主義のスタイルにならないものかと考えています。

もしくは、逆にもっと高卒採用を推奨しても良いのでは...

-環境編-

5.環境問題への意識

日本でも環境問題は取り上げられるが、実際、身近な生活の中でどういう取り組みを行なっているのかという疑問。

日本は「リサイクル率は高い」ですが、
リサイクルという行為にもエネルギーが必要であること、僕たちがリサイクルに出した電子機器を分解する中で、多くの労働者が有毒な気体を吸って作業する状況になっていることなどはあまり教えられてないと思います。(くわしくはこちらのnote)

「リサイクル」という行為が環境に対して正しい行為であると、大人も含め鵜呑みにしてしまうことが良く無いと思い、そもそもモノがそんなに必要であるか、という段階から考えるべきだと考えています。

建築における木について考える授業の中でも、建設プロセスのどの段階で最も地球環境に負担を与えているか、また、サステナブルな素材を利用した建築の分析、建築家が、どうすれば環境負荷を減らせるかなどの内容もありました。
また、フィンランドでは、レジ袋の料金が20セント(約24円)だったり、買う場合は負担になる料金設定なので、日本より比較的マイバックが多いです。
普段生活するだけでも、環境問題を意識させられること、何かしらの行動をしている人を見かける回数が多いです。


6.プラスチックだらけ

これに関して、海外の方からの反応で面白かったのが、「プラスチックに包まれて清潔と感じているかも知れないが、私としては化学物質に包まれまくっている方が心配。」と言われたことで。すごく皮肉っぽくて好きでした。

プラスチックを無くすことは難しいですが、減らす努力はできると思っています。

そういえば、プラストローはほとんど利用されていなかったりする。
店によって、そもそもストローを渡す前提がないお店、紙ストローを準備しているお店がありました。


7.ヴィーガン/ハラルへの配慮

恥ずかしながら、僕は割と最近まで、ヴィーガンやベジタリアンは全て宗教的な理由からくるものと思っていました。

簡潔に説明するならば、
ヴィーガンとは、(全ての人では無いかもしれませんが)肉だけでなく、卵や乳製品など、動物性の食物を食べない使わない、量を減らす行動をしている人と考えてください。

つまり、動物を搾取すべきで無いという思想のもとの行動です。

僕らの多くは、パッケージ化されてる肉や牛乳しか知りませんが、その過程で多くの家畜動物は過酷な人生を送らされています。

この動画は、家畜動物の殺傷など、現実と思いたくないグロテスクな描写もあり、閲覧を勧めることはしませんが、とても考えさせられます。

ヴィーガンと日本で聞いたときは、「肉を食べないなんて変な人だ」と正直思っていました。しかし、彼らはあくまで動物のためだったり、その行動によって必要以上に生まれる牛の量を減らし、結果として環境に寄与するという思想のもと動いている。

その事実を理解しないままという人は、意外と多いのではと考えています。
一概に良い悪いの話ではありませんが、そのような行動をしている人のためのサポートが整っている環境の方が誇らしいのではと考えています。

ハラルに関しては、宗教が絡みますが九州大の伊都キャンパスでは専用の食堂がありましたが、小規模であったし、レストランでのベジタリアンのためのメニューの表記も日本ではほとんど見たことなかったという印象です。

実際に学食での一例を紹介します。
食堂のメニューは、毎日スマートフォンアプリで確認できて、Vegetarian メニューもあります。

ビュッフェ形式で、その中に、KASVIS / VEGETARIAN と記載しているのがベジタリアンのためのメニューです。



豆のスープをじゃがいも、サラダ等と一緒にいただきましたが美味しかったです。



8.煽るだけのメディア

これは、様々なメディアを利用する上で主張したいのですが、メディアの情報を鵜呑みにすることをやめて欲しいと思っています。

公式なメディアだから正しい訳ではありません。自分自身で調べ直す思考が欠落している人が多いと考えています。

例えば、フィンランドのことは日本では主に「幸福度ランキング1位幸せの国!」「ムーミン、マリメッコなどの可愛いデザイン!」などと、情報が発信されています。
確かに、それは事実なのですが、フィンランドに住んでみると「日が差さず、長く暗い夜の続く秋」「周囲で鬱病が多発」「ムーミン、マリメッコが有名・人気なのは日本ぐらい」という事実に気づくことになります。

僕は、フィンランドのメディアを優れていると主張したいのではなく、単純に日本のメディアを利用するにあたって「分かりやすい記事が出すぎている、世論になっている」ことが違和感に繋がっています。

メディアを利用する人々それぞれが、常に自分で頭使って、時間割いて歴史を遡って情報を確かめることが重要だと思っています。

メディアはそのきっかけとして利用すれば良いのではと思っています。



- 文化編 -

9.ペットショップという形式

フィンランドでは、ペットとしてお金で売ってはいるが、ブリーダーがしっかり育てた後に直接やりとりしています。(くわしくはこちら)
ただ、やはりペットショップのように、常時見世物にしているような場所は今の所見たことがないです。

10.日本の誇り

先日、トヨタがトヨタのための都市計画 Woven City を発表して、その計画にデンマークの世界的な建築家、ビャルケ・インゲルスが代表を務める、BIG が参入していることが明らかになりました。日本が世界に誇るトヨタが、日本で作る都市の計画を、海外の企業を中心に企画しています。
これはあくまで一例ですが、世界に進出する日本人が誇れる企業ほど、日本に執着することをやめている気がします。

11.安すぎる物価

これを書いた理由としては、僕が建築を学ぶ身であること。そして、昨年福岡県八女市にて、ものづくりを行う方々やそれを発信する方々の話を聞いたことが大きいです。

建築設計を学んでて考えるのが、なぜ日本のいわゆる「アトリエ系事務所」の給与はあんなに低いのかということ。

明らかに労働時間と、給与の比が他の職業と比較して合っていないのに、大学内でその要因である「建築を取り巻くお金のサイクル」を学んだり、教える講義は全く無い。これはずっと疑問に思っています。

また、ものづくりに励む人々が、どんなに素晴らしい技術や使いやすさなどを追求したプロダクトも、それをしっかりと評価してお金を出す姿勢を持つ人は少なく感じます。

安いことは消費者としては嬉しいのかもしれないが、それが必ずしも社会全体として良い方向に向かっているかは疑問に思っています。


12.母親に優しくない社会

1.男だらけの社会 とちょっと被るかもしれない。正直に言いますが、意図して初めと終わりに性別系の問題を書いていました。

なぜなら、日本で一番「変えられるのに変えきれていない」ことがこの問題だと考えているからです。

妊娠後はひどいつわり、自由に動けない身体で過ごす長い期間、出産の痛み、産まれれば夜泣きが始まり、対話のできない赤ちゃんとの生活、合間に家事、夫家族との付き合い等々。

1年前、姪が産まれてから聞く話だけでも、本当に母親の負担は大きいと感じるし、改めて日本の母親のパワフルさを感じました。

それ以前に、キャリア⇆妊娠適齢期の問題等もあるし、明らかに女性の方が社会的負担が大きいので、せめて制度とかシステムとか人間が変えられる部分は、もっと女性に優しくすべきではと考えてしまいます。


おわりに

僕はフィンランドを称賛したいわけではなく、「これを機にちょっと日本のこと考え直す。」というきっかけづくりがしたいだけです。

フィンランドと日本では人口も、人種や宗教の比率、今まで辿った歴史も気候も全く違います。ただ、明らかに日本でも参考にして改善できる部分があるのではないかと毎日モヤモヤと考えています。


この記事を書いた人
生幸 Takayuki 
九州大学芸術工学府。
フィンランド School of Arts, Design and Architecture, Aalto University に留学中。 専攻は、建築設計・ランドスケープデザイン。