わたしが生きたい社会ってどんなだろう?
そのヒントは、北欧にあるかもしれない。

わたしたちが北欧で見たこと、感じたこと、そして、語りたいこと。
大学生たちが現地よりお届けします。

コペンハーゲンの中の異国・ノアブロをディープに散策する


Nørrebro(ノアブロ)が持つ二面性について紹介した前回の記事では、
①周辺地域とは異色な、②若者と流行が集まる地・移民の暮らしの場という2つの側面をもち、③開発の歴史が背景にある、の3点がポイントでした。

今回はよりディープに掘り下げて、Nørrebroのまちの特性から現れるここにしかないコペンハーゲンの姿について、紹介します。
ここで紹介するのは、”移民や学生が多く住む地域”という特性から生まれた様々な空間です。
半年間生活してみて「これはNørrebroだからこそだ」という気付きがあったものをまとめています。

私がコペンハーゲンに滞在する友人に何度かツアーをした場所とコースなので、ディープなNørrebroを知りたい人は、ぜひこの道をなぞってまちを歩いてみてください!





Nørrebro流の買い物】

移民や学生が多いということは、家族の人数が多かったり一人暮らしをしている人が多かったりするということ。そのため、安く買い物をしたいという人が多いです。さらに、中東からの移民は会社などに所属せず、個人で仕事をしている人も多いことが特徴です。
これらを反映した、このまちならではの買い物の風景があります。

Nørrebro駅近くの路上市

駅を降りた道の反対側、高架下の歩道

高架下には、暖かくなると毎日のように路上マーケットが並びます。
コペンハーゲンでは骨董品やアクセサリーなどを販売するアンティーク市が週末に広場などで開かれたりするため、路上マーケット自体は珍しいものではありません。この通常のアンティーク市は時間が決まっており、広場など人が集まる明るくて広い場所で開催されます。出店者もお客さんも広く人々に開かれており、出店者の多くはデンマーク人で買い手は地域に住む多様な人々。私のような日本人がふらっと行って、うきうきしながら英語で買い物するのも全く違和感ありません。また、テーブルの上に小物を並べる、段ボールの中に衣類を入れる、地面に布などを敷いてそこに商品を並べる、など雑然としています。でも最低限きれいに売ることが心掛けられているので、むしろその手作り感に人の温かみを感じます。

Nørrebro駅近くの路上市が通常のアンティーク市などと違うのは、場所・人・売り物の3つの点においてです。
まず、場所。マーケットが出るのは高架下の日陰です。道路の反対側は駅のため人の往来が非常に多い歩道ですが、壁やガードレールがある環境がおそらく出店場所にちょうどいいのでしょう。出店者たちは一日中地べたに座って物を売っています。
次に人。マーケットを出しているのも品を見ているのも、ほとんどが黒人系の男性たち(女性は少数)で、言語も英語やデンマーク語ではない、中東・アジア系の言語が飛び交います。もちろん参加者を規制しているわけではないのですが、(私がビビりということを差し引いても)勝手を知らずに参加するのはかなり難しい雰囲気で、カメラを向けるのも憚られるような雰囲気です。
そして売り物。売るものは、衣類、装飾品、靴、PCカメライヤホンなどの電子機器、DVDなど多岐にわたり、一体どこから集めてきたのかという状態です。それをきれいに並べもせず布に置くわけでもなく、地面に雑然と並べています。例えば、衣類は取り込んだ直後の洗濯物のようにたたまず積み上げてあったり、コードは何本か絡まっているようにも見える状態で、まとめることなく置かれています。売り物として良く見せる気持ちはないのではと思います。

ちょっと怪しい雰囲気も漂うこの空間。警察が時々見回りにきたり、指導をしている場合もあるよう。それで散り散りになっても、次の日には元のように営業しています。
値段などを聞いたわけではありませんが、中古のものを安く買える、中東系の人々のローカルマーケットになっていると考えています。


H&M

スウェーデン生まれのブランドH&Mはコペンハーゲンにたくさんありますが、NørrebroH&Mはちょっと特殊。

セール棚が圧倒的に広くて、ごちゃごちゃしています。季節もはっきり言ってぐちゃぐちゃ、値段は半額くらいにまで値下げされていますし、棚当たりの商品数が尋常じゃないんです。ハンガーにかかりきらずに床に落ちてるものもたくさんあるくらい。

店内の様子、写真が無くて大変申し訳ないんですが、冒頭のグーグルマップのピンから飛んで、投稿されている写真を見るとよく分かります…!

H&Mは市街地では「洗練されたファストファッションのお店」という見せ方・売り方をしていると感じますが、ここではお店の半分がディスプレイは気にせずとにかく安い掘り出し物を探す場所になっています
新品の衣類も物価のせいでかなり高いコペンハーゲン。Tシャツ1枚で2000円でも安いと感じるほどです。ジーパンは最低6000円を覚悟しないといけません。そんな中で、所得が低い人が多く住むNørrebroでは最新デザインの服だけでなく、安く服を買いたいというニーズも高い。そんな商品が求められるNørrebroならではの棚の作り方なのではと思っています。

・中東系のお店の数々!


破格の値段で、生鮮食品が買えます

コペンハーゲンには多くの移民の方が暮らしており、トルコ・イラン・サウジアラビアなど西アジア・中東出身の人々も多く暮らしています。そのため貴金属のお店やムスリムファッションのお店、そしてローカルな食材を販売するお店が多く並んでいます。

中でもよく見かけるのは中東やアジアのものをたくさん売っている小規模なスーパー5kg売りのじゃがいもと玉ねぎ、多種類の米、大きな切り身の魚、様々なスパイスや調味料、チンゲン菜やホウレン草といった普通のスーパーでは見ない野菜まで購入できます。
屋外の野菜売り場の前にはいつも人だかりが。スカーフをつけたムスリムの女性をよく見かけるため、まさに中東など出身の移民の人々の食卓を支えている存在だと考えられます。また普通のヨーロッパ系大型スーパーより野菜などが23割値段が安いため、学生たちもよく買い物をしています。
ちなみに私の家の近くの中東マーケットは、24時間休まず営業していました。ワーク・ライフ・バランスを重んじるデンマークでは、コンビニも24時間営業しないため、この営業形態はとっても珍しいんです。

また、ケバブ屋がとても多いのも特徴です。デンマークではファーストフードとして、ハンバーガーと同等かそれ以上にケバブはメジャーな存在です。そんなケバブはそもそもトルコやイランといった中東の国々の料理で、それらの国からの移民が広めたもの。Nørrebroでは中東系の人々が中東系の人々に対して商売をしているので、値段と品質には厳しい世界です。そのため、安くて美味しいケバブ店が多くあるんです。市の中心部では600円くらいしますが、安いお店では400円くらいで食べられちゃいます。


【移民・難民由来のスポット】

この地域に移民・難民の方が多いことから生まれた施設もあります。普段は見ないものから何気なく訪れる人が多い場所まで、実はNørrebroの文化ゆえにできたものだったりするんです。

Trampoline House


難民シェルターとなっている施設。言語や法的知識の教育プログラムの提供から、保育、食事のサービス、職を得るためのレクチャーや女性向けのワークショップまで、幅広く暮らしに直結した活動を行っています。Nørrebroの中でも市中心部から離れた住宅の多い少し奥まった場所に立地しています。オープンしている日は誰でも自由に出入りでき、毎日多くの人でにぎわっています。
難民の人同士や、学生や研究者・ボランティアなどのテーマに関心のある人々が出会う場としても役立っています。月に一度のパーティーに参加したときには、中庭にみんなで集まって、難民の人たち、インターン生、私たち学生、施設の責任者の方で飲み物を飲みながらおしゃべりをしました。難民の人のコミュニティというと、普通だと当事者や強い思いのある人以外は入りづらいだけに、これだけ気軽にコミュニティに参加できる場はほかには無いように思います。

Superkilen Park(スーパーキーレン)


コンクリートの上に白い曲線が描かれたゾーンが観光名所としても有名な、Coolな公園。実はこの場所は、移民や学生といったこの地に由来が無い人たちのために作られた憩いの場です。地縁が無い人たちは、地域に溶け込むことが難しく、この地域は人々がばらばらに暮らしていました。つまり、人々が集まったり交流したりする場がなかった。そこで行政や企業の出資によりこの公園が作られ、人々が気軽に集まったり会話を交わしたりできるような場を作ったんです。
普段は幅広い年代の人が思い思いにくつろいだり写真撮影をしたりしています。しかし移民・難民関係などのテーマでNørrebro発でデモが行われる際には、この場所に人が集まって抗議活動をすることもあります。
憩いの場、そして集会の場。様々な場面でNørrebroを象徴する場として、人が集まる場として機能しているわけです。

・Blågårds Plads

広場を人が埋め尽くして、ステージでは演説やパフォーマンスを行います

Nørrebroの中でも、市中心部側にある広場です。様々なデモの発着地点になっていて、ここでスピーチなどのイベントも行われています。私が訪れたときは国際女性デーのデモで、市中心部からNørrebroのこの広場までを歩きました。
2019年4月に移民に対する過激な排外的発言や行動が問題となった政治家、ラスムス・パルダンに対するデモ活動がNørrebro発で行われました。その際にはNørrebro駅近くから広場まで、1日かけて暴徒化したデモ隊が移動しました。


【おまけ:こんなところも】

Wefood Nørrebro



Wefood賞味期限切れの保存食や、賞味期限直前の生鮮食品だけを扱うスーパーマーケット。低下の半分や3分の1といった超お得な料金で、食材を購入することができます。
食品ロスを減らすために、卸売りや小売り店から集まった食材を販売するこのスーパー。山盛りで商品がこのスーパーに並んでいるのを見ると、いかに自分たちの知らないところで食材が無駄になっているのか思い知らされます。例えばこの段ボールの山、すべてハロウィンの際に売り出されたブラウニーのBOX8個入りくらい)なんです。おそらく昨年9月ー10月に売り出されたもので、賞味期限は2月。私がお店で見たのは6月でした。ちなみにこれが売り切れたあとは、全く同じ商品で包装だけ違うクリスマス用のブラウニーが山のようにおかれていました。
また、賞味期限が切れていても使えるものが多くあるということにも気づきます。例えば瓶・チューブの調味料、長期保存できるお菓子(クッキー、ブラウニー、チップスなどは特にお店でよく見ます)、ペットボトルのジュースなどなど。賞味期限が切れても美味しく・安全に食べられるなら気にしないという方も多くいるのではないでしょうか。

ちなみに、Wefoodはコペンハーゲン市内ではAmgerという地域にも出店しています。どちらの地域も市内で見ると中~低所得の人々が多い地域のため、安い食材を求めている人が多いエリアということで、ニーズに合った販売方法をとっているとも言えるでしょう。


・ペインティング

Nørrebroの建物の壁面には、落書きというには完成度の高すぎる、大規模なペインティングがされているところも多いです。
中でも私がおすすめするのは、Nørrebrogadeという大通り沿いにある、この2つのペインティング。
Superkilenのすぐ近く

バス停Sjællandsgadeのすぐ近く

Vi elsker Nørrebro”We love Nørrebro(ノアブロを愛してる)”の意味です。
One man's trash, another man's treasure”は「ある人にとってのゴミは、別の人にとっての宝だ」の意味です。

例えばですが、「東京が好き」という人と「下北沢が好き」という人は同じでありません。「下北沢が好き」という人は、若い人でカルチャーが好きで、例えば古着とか好きなのかな~などなど想像できるかと思います。「東京」ではなく「下北沢」という人は、文化や集まる人や空気感を含めた、その地域が心地良いしカッコいいと思ってるし、まとめて言えば好きってことです。
同じように「コペンハーゲンが好き」という人と「Nørrebroが好き」という人って、おそらく同じじゃないと思います。ちょっとやんちゃでアングラで、地域愛や反骨精神を建物の壁面にデカデカと描いちゃうような人、そのペインティングを見てなんかクールだなあと思うような人。それがNørrebroにアイデンティティを持ち、Nørrebroに暮らす人々なのかなと感じます。
移民、学生、労働者といった、デンマーク社会で日々もがき時には苦しい思いもする人々が集まる地域だからこそ、「(少なくとも)Nørrebroは自分の居場所だ」と感じられることが重要で、その思いをペインティングは代弁しているようにも思えました。


【まとめ】

コペンハーゲンでも独自の文化が育っているNørrebro
移民問題への興味が、わたしがNørrebroを深く知ったり考えたりするきっかけになっていると思います。しかしそれだけでなく、「決まったところがなく自由」「まちが好きな人がいると感じられる」というこの地域の雰囲気が、このまちが人を魅了するポイントなのではないでしょうか。