デンマークの政治世界で活躍する若者として以前にマティアスくん(記事はこちら)を取り上げましたが、今回は史上最年少の21歳で欧州議会議員に当選したキラさんを紹介します。
彼女はなぜ当選できたのか?現役大学生らしい議員活動の様子は?
ヨーロッパのスタンダードさえも打ち破る彼女の活躍について、メディアの記事とデンマーク人の友人たちの声、そして彼女とイベントを通して少しだけお話できた経験をもとにまとめます。
そもそもこの記事を書くことになったきっかけは、彼女とデンマーク最大の政治フェスティバル”People’s Meeting“で少しだけお話した内容を、北欧がたりメンバーがシェアしてくれたこと。
彼女の紹介として、そのプチインタビューの内容をご紹介します。
彼女の人柄や発言に惹かれた皆さん、ぜひ最後まで記事を読んでください。
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―なぜ政治家になりたかったの?
「私は政治家っていう言葉が好きじゃないんですよね。なぜなら、政治家という言葉は、どこかにただ座っている人っていうイメージがあるから。私はその政治家のイメージを変えたいと思ってます」
―経済学部生なのにどうして政治に深く関わろうと思ったの?
「私は『女性』で『若い人』が特にEU議会に必要だと思ってました。『もし女性や若者の議員を増やしたいんだったら、あなたがならないと!』と言われたことが、EU議会議員になった理由の1つですね」
―何を変えたいと思っていますか?
「メイントピックは気候変動。風力などの再生可能エネルギーに対する予算配分が低い現状を変えたい。さらに、南ヨーロッパの若年層の雇用問題にも取り組みたいですね」
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Kira Peter-Hansenさんは、21歳のコペンハーゲン大学の経済学部の学生。今年2019年5月に行われたEU議会選挙で、デンマークの社会主義人民党(Socialistisk Folkeparti : SF)から当選しました。21歳でのEU議会議員当選は、EU史上最年少です。
ちなみにEU議会議員の過去最年長は82歳で、その年の差はなんと61歳なんです。
キラさんはSFの青年部で活動していました。SFの青年部について詳細はこちらの記事で紹介しています。
インタビューでお話した2人によると、彼女は以前の選挙でSFの候補者のもとで働いたり、大人の党員からの支援を受けるためにコネクションを作ったりと綿密な準備をしていたそう。青年部から議員になることは制度上可能ですが、青年部内の候補者選挙で選ばれること、また大人の党員たちから承認を得ることなど多くのステップが必要となり、実際のところはやはり難しいんです。まして学生で、立候補したのが地方議会でも国会でもなくEU議会ともなれば、その難易度が高いことは容易に想像できます。
冒頭で紹介したイベントでSFの党員の年配女性の方と話したところ「デンマークの教育システムだったら、18歳で政治家になれる。議会には若い人もいるべきで、すべての人が代表になれるべき」 とおっしゃっていたとのこと。このような大人たちの考えやそれを可能にする文化的・制度的土壌がデンマークにはあるということです。
選挙活動はSF青年部が全面的に協力して一緒に取り組んで、その手法や内容が若者の支持を得たのだそう。
選挙運動時にキラさんは”ambitious green transition” (意欲的な緑への転換)、つまり環境政策をもっと積極的に推進しましょうという方針をを掲げていました。
“Fridays for future” という、金曜日に環境問題について訴える若者中心のデモ活動をする環境運動(詳しくはこの記事で)に参加したことから、若者が環境に対する不安感を抱えていることを感じたこと、またその声が政治に反映されていないと感じたことが、EU議会選挙立候補の1つのきっかけだったそうです。
家族も本人も、21歳という年齢でEU議会議員になることを不安に思うこともあるそう。しかし彼女は、幅広い年齢層の議員で意見を交わすことで人々全体にいい結果をもたらせる、と年齢の広がりをポジティブに捉えています。年齢が低いことも長所の1つだ、というのです。
デンマークに割り当てられた議席は13です。
今年のEU議会選挙をデンマーク全体としてみると、前回第一党を獲得したデンマーク国民党が議席を3つ減らし壊滅的な打撃をうけ、逆に前与党である自由党が第一党となりました。また、キラさんが所属する社会主義人民党と急進左翼党の2党が議席を1から2に倍増させました。デンマークのEU反対派の票は、伝統的にEU議会に議員を輩出していた反EU国民運動の票が赤緑連合に流れて、今回はじめて候補者を出した赤緑連合が議席を獲得することとなりました。
SFからは前回も議席を持っていたMargrete Aukenとキラさんの2人の女性議員が当選しました。EU議会では政党ごとに会派に所属しますが、SFは環境主義を掲げる欧州緑の党(European Green Party)に参加しています。
第一の目標としてキラさんは、EUの今後7年間の予算の中でエコな農業や環境政策への投資を後押しする研究や技術といった、環境に配慮した分野への予算配分を高めるために活動しています。
また、農業分野における共通農業政策の改正も重要な目標として挙げています。共通農業政策(common agricultural policies:CAP)は、農作物の最低価格の保障や農業者の収入保持のために導入され政策です。(農林水産省)環境政党のメンバーであるキラさんは、これを利益や生産力を重視した農業ではなく、環境に配慮した農業を推進するために改正する必要があると考えています。
これに加えて個人のレベルでは、EU本部があるブリュッセルと自国デンマークの行き来を極力減らすスケジュール調整や、自身のCO2排出量を低く保つためにフライト利用を避けるといった徹底ぶり。ミーティングもオンラインで行うなど工夫して、環境政党のEU議員の課題として挙げられる自身が与える環境負荷を減らす努力をしています。
参考:DW
また彼女は自身がEU議会で見聞きしたものや自分がどんな活動をしているかを、Instagram で発信しています。フォロワーは4000人。そのうちコンスタントに2000人程度が画像や動画にコメントを添えて「今」を伝えるストーリーを見ており、選挙のあとは毎日200-300人が彼女にメッセージを送っていたそう。
国会への投票率が高いデンマークでも、EU議会選挙への投票率はそれに比べると低め。(ちなみに今年は投票率66%でした:CPH Postより)それは、EUやEU政治が国民から遠いものと感じられていることが1つの原因と言われています。だからこそ、彼女はSNSというツールを使ってリアルタイムに活動を発信することで、EUと人々の距離を近くしているのです。
ちなみにキラさんはEU議会内の年齢やジェンダーの偏りについて意見を求められたインタビュー(BBC)で、若い女性の議席数の最低ラインを規定する制度(クオータ制)は導入する必要はないが、EU議会の会派内でジェンダーや年齢について配慮したメンバー構成をするべきだと発言しています。
先ほど紹介したBBCのインタビューでも、会派のトップ争いをannoyingだと言い切ってしまうあたり、若者の声の代弁者であるということを感じずにはいられません。
日本の21歳は選挙に立候補することはできません。立候補できたとしても選ばれるかどうか?若者の投票率が低い今の日本では難しいかもしれません。
以前マティアスくんインタビューの後記で私は「政治と若者が遠ざかっているとして、その距離を埋めるためにどちらかが行動しないといけないとすれば、若者がまず行動するという選択肢を捨ててはいけない、政治家が近づいてくれるのを待っていてはいけない」ということを言いました。キラさんの行動はまさに「社会に関わって行こうとその先陣を切る姿勢」なんだと思います。
また、そんな彼女を投票という形で支援する同世代がいるということからも、日本の若者も学べることがあるのではないでしょうか。
政治に不満があるなら、可能な限りの行動と意思表示くらいはしたいものですね。
彼女はなぜ当選できたのか?現役大学生らしい議員活動の様子は?
ヨーロッパのスタンダードさえも打ち破る彼女の活躍について、メディアの記事とデンマーク人の友人たちの声、そして彼女とイベントを通して少しだけお話できた経験をもとにまとめます。
▶欧州議会(以下EU議会と書きます)とは
EU加盟28か国から人口に比して議員を選出して、議員たちは国を超えた会派を組んで、EU全体に関わる政策について扱う議会。EUのほとんどの政策分野の法案の決定や、EU予算案の審議に大きな影響力を持っています。
参考:EU MAG
若者の声の代弁者-Kiraさんと話してみて
People's Meetingの際の写真。フレンドリーすぎて感動です。 |
そもそもこの記事を書くことになったきっかけは、彼女とデンマーク最大の政治フェスティバル”People’s Meeting“で少しだけお話した内容を、北欧がたりメンバーがシェアしてくれたこと。
彼女の紹介として、そのプチインタビューの内容をご紹介します。
彼女の人柄や発言に惹かれた皆さん、ぜひ最後まで記事を読んでください。
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―なぜ政治家になりたかったの?
「私は政治家っていう言葉が好きじゃないんですよね。なぜなら、政治家という言葉は、どこかにただ座っている人っていうイメージがあるから。私はその政治家のイメージを変えたいと思ってます」
―経済学部生なのにどうして政治に深く関わろうと思ったの?
「私は『女性』で『若い人』が特にEU議会に必要だと思ってました。『もし女性や若者の議員を増やしたいんだったら、あなたがならないと!』と言われたことが、EU議会議員になった理由の1つですね」
―何を変えたいと思っていますか?
「メイントピックは気候変動。風力などの再生可能エネルギーに対する予算配分が低い現状を変えたい。さらに、南ヨーロッパの若年層の雇用問題にも取り組みたいですね」
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政党青年部から議員へ駆けあがった21歳
青年部での活動の様子 |
Kira Peter-Hansenさんは、21歳のコペンハーゲン大学の経済学部の学生。今年2019年5月に行われたEU議会選挙で、デンマークの社会主義人民党(Socialistisk Folkeparti : SF)から当選しました。21歳でのEU議会議員当選は、EU史上最年少です。
ちなみにEU議会議員の過去最年長は82歳で、その年の差はなんと61歳なんです。
キラさんはSFの青年部で活動していました。SFの青年部について詳細はこちらの記事で紹介しています。
インタビューでお話した2人によると、彼女は以前の選挙でSFの候補者のもとで働いたり、大人の党員からの支援を受けるためにコネクションを作ったりと綿密な準備をしていたそう。青年部から議員になることは制度上可能ですが、青年部内の候補者選挙で選ばれること、また大人の党員たちから承認を得ることなど多くのステップが必要となり、実際のところはやはり難しいんです。まして学生で、立候補したのが地方議会でも国会でもなくEU議会ともなれば、その難易度が高いことは容易に想像できます。
冒頭で紹介したイベントでSFの党員の年配女性の方と話したところ「デンマークの教育システムだったら、18歳で政治家になれる。議会には若い人もいるべきで、すべての人が代表になれるべき」 とおっしゃっていたとのこと。このような大人たちの考えやそれを可能にする文化的・制度的土壌がデンマークにはあるということです。
選挙活動はSF青年部が全面的に協力して一緒に取り組んで、その手法や内容が若者の支持を得たのだそう。
選挙運動時にキラさんは”ambitious green transition” (意欲的な緑への転換)、つまり環境政策をもっと積極的に推進しましょうという方針をを掲げていました。
“Fridays for future” という、金曜日に環境問題について訴える若者中心のデモ活動をする環境運動(詳しくはこの記事で)に参加したことから、若者が環境に対する不安感を抱えていることを感じたこと、またその声が政治に反映されていないと感じたことが、EU議会選挙立候補の1つのきっかけだったそうです。
家族も本人も、21歳という年齢でEU議会議員になることを不安に思うこともあるそう。しかし彼女は、幅広い年齢層の議員で意見を交わすことで人々全体にいい結果をもたらせる、と年齢の広がりをポジティブに捉えています。年齢が低いことも長所の1つだ、というのです。
デンマークでのEU議会選挙をさくっと解説
EU議会選挙は、全体の議席から各国に割り当てられた議席数を国内の選挙で争います。デンマークに割り当てられた議席は13です。
今年のEU議会選挙をデンマーク全体としてみると、前回第一党を獲得したデンマーク国民党が議席を3つ減らし壊滅的な打撃をうけ、逆に前与党である自由党が第一党となりました。また、キラさんが所属する社会主義人民党と急進左翼党の2党が議席を1から2に倍増させました。デンマークのEU反対派の票は、伝統的にEU議会に議員を輩出していた反EU国民運動の票が赤緑連合に流れて、今回はじめて候補者を出した赤緑連合が議席を獲得することとなりました。
Wikipediaより作成 |
SFからは前回も議席を持っていたMargrete Aukenとキラさんの2人の女性議員が当選しました。EU議会では政党ごとに会派に所属しますが、SFは環境主義を掲げる欧州緑の党(European Green Party)に参加しています。
環境政策の推進
彼女が支持された大きな理由は、彼女が掲げる環境政策の推進です。第一の目標としてキラさんは、EUの今後7年間の予算の中でエコな農業や環境政策への投資を後押しする研究や技術といった、環境に配慮した分野への予算配分を高めるために活動しています。
これに加えて個人のレベルでは、EU本部があるブリュッセルと自国デンマークの行き来を極力減らすスケジュール調整や、自身のCO2排出量を低く保つためにフライト利用を避けるといった徹底ぶり。ミーティングもオンラインで行うなど工夫して、環境政党のEU議員の課題として挙げられる自身が与える環境負荷を減らす努力をしています。
参考:DW
SNSで若者とEUを結ぶ
キラさんのInstagram。ストーリー投稿がとても丁寧です。 |
また彼女は自身がEU議会で見聞きしたものや自分がどんな活動をしているかを、Instagram で発信しています。フォロワーは4000人。そのうちコンスタントに2000人程度が画像や動画にコメントを添えて「今」を伝えるストーリーを見ており、選挙のあとは毎日200-300人が彼女にメッセージを送っていたそう。
国会への投票率が高いデンマークでも、EU議会選挙への投票率はそれに比べると低め。(ちなみに今年は投票率66%でした:CPH Postより)それは、EUやEU政治が国民から遠いものと感じられていることが1つの原因と言われています。だからこそ、彼女はSNSというツールを使ってリアルタイムに活動を発信することで、EUと人々の距離を近くしているのです。
ちなみにキラさんはEU議会内の年齢やジェンダーの偏りについて意見を求められたインタビュー(BBC)で、若い女性の議席数の最低ラインを規定する制度(クオータ制)は導入する必要はないが、EU議会の会派内でジェンダーや年齢について配慮したメンバー構成をするべきだと発言しています。
先ほど紹介したBBCのインタビューでも、会派のトップ争いをannoyingだと言い切ってしまうあたり、若者の声の代弁者であるということを感じずにはいられません。
おわりに
21歳、私と同じ年齢です。日本で言えば「学生団体で精力的に活動していた」とはいっても普通の大学生。そんな大学生の女の子が、EUに対しても意見し変えていこうとしていることにまずは驚きを受けました。そしてそれを支持する同世代の投票者が多くいることも、また私には驚きでした。日本の21歳は選挙に立候補することはできません。立候補できたとしても選ばれるかどうか?若者の投票率が低い今の日本では難しいかもしれません。
以前マティアスくんインタビューの後記で私は「政治と若者が遠ざかっているとして、その距離を埋めるためにどちらかが行動しないといけないとすれば、若者がまず行動するという選択肢を捨ててはいけない、政治家が近づいてくれるのを待っていてはいけない」ということを言いました。キラさんの行動はまさに「社会に関わって行こうとその先陣を切る姿勢」なんだと思います。
また、そんな彼女を投票という形で支援する同世代がいるということからも、日本の若者も学べることがあるのではないでしょうか。
政治に不満があるなら、可能な限りの行動と意思表示くらいはしたいものですね。