わたしが生きたい社会ってどんなだろう?
そのヒントは、北欧にあるかもしれない。

わたしたちが北欧で見たこと、感じたこと、そして、語りたいこと。
大学生たちが現地よりお届けします。

高校生で政党支部代表。マティアスくんに聞くデンマークの若者と政治



高校生なのに政治活動家、それも政党支部代表と聞いて驚かない人はいないでしょう。
今回「わたしたちの北欧がたり。」が初めてインタビューをしたのは、そんなハイパーな肩書をもつ19歳、Mathias(マティアス)くんです。

日本では若者の政治に対する無関心や投票率の低さがたびたび議論に上がります。
まして10代から政治的アクションを起こす人はほとんどいないはず。

彼はどうして政治活動に没頭するようになったのか。デンマーク社会の何が彼にそうさせたのか。デンマークの高校生の政治関心はどうなっているのか。
インタビューの中で見えてきたのは、政治と人々をうまく結びつけるデンマークの社会構造と、わたしたち1人1人が「社会を変える」イニシアチブを持つことの大切さでした。
(聞き手:黒住 奈生、能條 桃子、瀧澤 千花、高槻 祐圭/インタビュー:2019518日/編集:黒住 奈生)

 



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Profile
Mathias Kring Niebuhrくん
19歳の現役高校生ながら、Vajle地区・社会民主党の支部代表。
また、同青年部の副代表も務める。
レゴランドでのアルバイトもこなしながら、学業と政治活動を両立させている。
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【支部代表になったのは「社会を変えた」経験から】


―政党支部代表としてどんな仕事をしているんですか?
Vajle地区の社会民主党の一般の人々からなる430人の党員のリーダーとして、彼らを活動に巻き込むのが僕の仕事です。特に僕は「何かを変える」ことにこだわって、より積極的に活動することを目指しています。
今デンマークではEU議会選挙と国会の総選挙が迫っていて、政党支部はそれぞれの候補者の支援活動をしています。国会の総選挙ではVajle地区からの候補者を支援していて、支部のメンバーの代表として、僕たちの意見を国レベルに届けるという役目があります。

政党支部では、党員と議員になる人との関係性がポイント。党員も議員も、同じテーブルで議論しているときの立場は同じなんです。より良い社会を目指して議論をし、集合的なゴールを共有する。だから党員たちにとって党の候補者は、なにか特別な目上の人ではなく、自分たちを代表して国政・地方の政治に参加してくれる人なんです。このムードを作ることも僕の仕事です。
これらの政治的に成功するという実務的な目的のほかに、社会的組織としてメンバーを幸せにすることも政党支部の大事な目的です。家族のようにおしゃべりしたり食事をしたりする機会も大切にしています。


―重要な選挙が間近に迫っているけど、選挙期間中は特にどんな活動をしていますか?
今は学校に行く前1時間、高校の前でビラや水などを学生に配っています。学校に候補者が来て議論をしたり質問をしたりする時間も設けられています。また学校外では、街頭に立ってビラや社会民主党のシンボルのバラを配ったり、現職の国会議員とカジュアルに話せるカフェを開いたりしているかな。

−1日どれくらい働いていますか?学校との両立は大変そうですが。
事務的な仕事だけだと12時間くらい、イベントがあるような忙しい時期はもっと長く仕事をします。8時から15時まで学校に行って、そのあと街頭に立ったりミーティングをしたりで深夜まで仕事をすることもあります。
前首相は女性で、彼女は良い首相であり良い母親であることを証明するために人の2倍働くと言っていたのがすごく印象に残っています。僕の年齢が低いこともそれと同じ。学生と選挙活動を両立して人の2倍働いて、僕の力を証明しないといけないと思っています。
 

Vajle地区・社会民主党の青年部のメンバー


―いつから政治に関わるようになったんですか?高校生で政党支部代表になるなんて、日本では想像できないんですが、これまでどんな経験をしたんですか?
デンマークでは社会科学の授業が早い段階からあります。自分が政治活動をするなんてそのときは思いもしなかったけど、人々や国に政治を通して影響を与えることがおもしろいと思ったんです。

そして、8年生、1415歳のときに学校選挙に参加しました。学校選挙とは教育庁によりすべての学校で2年に1度89年生が参加することが決まっていて、3週間かけて実際の政党をケースにした模擬選挙をするというものです。クラスで議論をしていたとき、裕福な家庭の生徒が税金が高いことに対して自分たちはお金を「捨てている」と言ったんです。このとき僕はお母さんが交通事故によるケガで仕事ができず、税金を財源とする生活保護をうけていました。彼女が「捨てている」お金は間違いなく僕の家庭で生活のために役立っていたんです。僕は当然頭にきて、彼女に僕の考えを伝えました。
でもこのとき、それでは不十分だと思ったんです。彼女1人を説得したところで、実際には僕は何も変えていないと気づいたから。
そこで家に帰ってgoogleで調べていて、政党の青年部を見つけたんです。社会民主党のデンマーク初の女性首相になった当時の党首は活動的で人格も魅力的で、党の理念にも共感しました。早速Vajle支部の青年部に入ることに決めて、誰も知り合いがいない中から徐々にスタートしました。

そのあと青年部の理事会に入って、副代表をやったあとに、代表を1年半務めました。このとき僕は、青年部がただ議論をするだけで実際の社会を何も変えていない、これでは政治活動とは言えないと感じていました。何かを変えたいという思いがあったんです。そこで代表の期間中、青年部で議論した結果を地方議会の議員に訴えて、Vajle地区に自然のままを残し住宅地の開発や耕作をしない地域を設ける政策を作りました。たった十数人の子供たちが、自分たちは何をしたいか、どんな社会にしたいかを決め、政治に影響を与えたんです。
このとき僕はみんなをまとめる力と議会に圧力をかけられることを証明したし、この成功のおかげで僕たちにも実際に何かを変えられるという自信を持てたんです。そこで、19歳になる少し前、政党支部代表の交代のときに立候補しました。若すぎるという批判ももちろんあったけど、議員や支部の理事と話して納得してもらって、支部代表になりました。



【デンマーク政治が健全に循環するわけ】





―デンマークでは選挙の投票率が高いですよね。これってなんでだと思いますか?
まずは学校教育制度。学校では学年が低いころからクラス委員から構成される生徒会があって、初等学校・高校・大学…と上がるにつれて大きな自治力を持つようになります。
また、前に話した学校選挙は3週間かけて行って、1週目には自分が関心のあるテーマを決めるための議論、2週目には自分の意見を示すキャンペーン活動、3週目には自分の意見に近い実際の政党を探すということをします。自分の関心と意見にあった主張をする政党を選ぶという、デンマークでの一般的な方法を身に付けるんです。また、この学校選挙は実際の選挙に直接的な影響力はありませんが、実際の政党や政策を扱うため、議論や結果にはメディアや政治家も注目しています。こういうものを通して投票の責任感を感じるようなると思います。

また、政治システムもポイントです。デンマークでは政権交代が頻繁に起こっていて、これは政治的に健全なことだと思います。人々は自分の主張や関心に合わせて、また政治家の行動や成果を見て支持する政党を変えています。だから政党の固定票はとても少なく、政治家はそのときの結果や地位に安心することはできません。例えば前回の選挙で票を伸ばしたデンマーク国民党は、4年前から大きな変化を起こせなかったので今は支持率が大きく下がっています。また、1214の政党があって固定的な大政党があるわけではないデンマークでは、支持政党を変えることによる心理的なジャンプが少なく、関心のある論点に応じて支持を変えることは簡単です。アメリカのような二大政党制だとこうはいかないはず。さらに、重要な政治テーマが持ち上がるとそれを論点に主張する新しい政党が登場します。自分の意見を代表する政党に投票しやすい仕組みになっています。

また、選挙制度にも工夫があります。人口に応じて議席が配分されることに加えて、投票数と議席数のギャップをキャンセルする仕組みがあります。だから例えば「投票数では40%だけど議席数では60%を占めている」なんて矛盾は起こらないんです。また、投票時には白票を投じて、投票の義務は果たしつつどの政党や候補者も自分の考えを代表していないという意思を示すこともできます。前回の総選挙では3万人が白票を投じていて、政治への不満を示している人も多くいるんです。



【高校生も社会に意見する。政治が遠いのは自分で遠ざけているから】




―では高校生の政治参加について。日本では政治に興味がない若者が多いと言われるんですが、デンマークではどうですか?
デンマークでも高校生は基本的に同じようなことを言います。「政治なんて退屈だ、Oh my god.」ってね。
でもデンマークの高校生は色々なトピックに対して強く自分の意見を持っているし、お互いに話もしています。それを政治だと知らないだけなんです。
同時に政党について全体的に懐疑的でネガティブな印象が広がっていることも事実です。支持したい政党がないとか、例えばある政党の政策に一部賛成だけど一部反対だからその政党は支持しない、とか。
でも彼らは政治に参加しなくても、「闘う」ことには参加しています。例えば気候変動の危機意識を高めるストライキには、学生もたくさん参加していました。政治的な活動だと知らなくても、彼らは純粋に何かを変えたいという思いを持っているんです。
だから僕は、意見を持って話すことは政治だとみんなに伝えているし、それで政治活動に参加してくれる学生もいます。また、僕自身は政治の中に入って内側から影響を与えることで、政党の主張を自分の主張、自分が賛成できる主張に近付けたいと思っています。

デンマークでは道を歩いていたら候補者を見かけたりするし、学校やイベントで直接話をする機会だってある。候補者を知ってさえいれば、政治は遠い存在じゃないんです。僕は前の大統領に招かれて直接話をしたこともあるくらい、政治家はとてもオープンです。もし政治家が遠いと感じているならば、シンプルにそれはその人が政治家の顔を覚えることに時間を割いていないだけ。その人自身が政治を遠ざけることを選んでいるだけだと思います。




―デンマークでは政治が身近で、社会に意見もあるから投票するということですかね。若者の投票率はどうですか?
若者の投票率が大人に比べると低いことが指摘されているのも事実です。でも若者の行動を大人が批判するのは今も昔も同じでしょ?今の大人は「PCばっかり触って」と若者に文句を言うけれど100年前はきっと「本ばっかり読んで」って文句を言ってたはずで、投票率もそれと同じような話。自然なことです。
実際には、選挙権を得る年には「my constitution」という憲法を簡単にまとめた本が配布されて、権利と義務の両方を感じるような制度もあります。また、高校生もすぐに大人になって、社会に不満を持ったり、それを表明して社会を変えられると感じるようになると、投票への責任感も自然と高まります。



【人々は協力すればもっと大きなことができる】




―将来が楽しみですね。今後も政治に関わり続けますか?
今は正直将来何をしたいかはわからない。選択肢が多いデンマークの高校生にとっては普通のことだと思います。でも政治にはかかわり続けたいし、将来的には議会選挙にも出たいです。
ただ僕はフルタイムで働いた経験もないし、まだそのときじゃないのかなと思います。だから、いったん社会に出て楽しいと感じる仕事を見つけて、同時に政治にも関わり続けられたらと考えています。

―マティアスくんはどんな政治テーマに取り組みたいですか?
デンマークの人々に、一緒に取り組めばもっとたくさんのことを実現できるということに気付いてほしいです。
今デンマークは以前と比べて個人主義化していて、個人の幸せを追求する傾向が強くなっている。自分の周囲がうまくいっていたらそれでいいと思ってしまったり、助けが必要な人々の存在を忘れてしまったりしています。でも僕は人を助ける機会があることが、その人を自身もより幸せにすると思っています
もちろん社会は意見の違う多様な人々で構成されているから、集合的な決定は自分の求めるものと違っていても受け入れないといけない。その違いに気づいて受け入れること、そして一緒に幸せを追求していくことが僕の理想です。

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デンマークの制度や仕組みが高校生の社会への関心・責任感を育てていると感じるとともに、わたしたち若い世代がどのように政治に向き合えばいいのかということを考えるヒントになるアイデアが多くちりばめられたインタビューとなりました。

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