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【社会の教科書レポ】デンマークの中学生は何を学ぶ?#1 政党編


こんにちは。北欧がたりのももです。

私は、2019年夏頃、デンマークに留学していた際に、国民学校(日本の小学校・中学校相当)に数日間お邪魔し、英語・社会・数学の授業を見学させてもらいました。学校に滞在している間、主権者教育・政治に関する教育に関心があったため、社会の授業を多く見させてもらっていたのですが、ふと教科書が目につきました。デンマーク語で内容がすべて理解できた訳ではないのに、「日本の社会の教科書とは何かが違う!!!」と感動したのを覚えています。

授業ではほとんど教科書通りに進めている印象はなかったのですが、日本に帰ってきたらしっかり読んで勉強しようと教師の方にお願いをしてコピーさせてもらっていたはいいものの、日々忙しく何もまとめないまま帰国から1年が経ってしまいました。


ということで今回、一念発起し北欧がたりのちか・なお・ゆうかと4人でGoogle翻訳を使いこなし、教科書を読んでみることにしました!初回は政党紹介のパートです。

「私もこういう社会の教科書が欲しい」と感じた感動が伝われば嬉しいです。


パート①政党について概要

教科書をコピーさせていただきました

章は大きく2つのパートに分かれていて、前半では政党の仕組や規則について、後半では各政党の歴史やイデオロギーについて紹介されています。


前半については、政党について紹介されていた中でも特におもしろかったポイントを紹介していきます。


1.有権者の投票行動の変化

デンマークでも過去には、政党には多くの支持基盤となる有権者がいました。つまり、有権者は党の実績や選挙期間中の活動に関係なく、支持する政党をあまり変えずに投票していたということです。しかし、今では有権者の多くは支持する政党を頻繁に変えているそうです。

その理由の一つとして、1950年代後半に政党が増え、また有権者が経済の問題や社会問題単体ではなく、環境問題や法的政策などより深い価値観まで組み込んで投票するようになったからではないかと考えられています。


こんな言葉も引用されていました。

民主主義とは意見や見方であり、富や立場ではありません。

-Viggo Hørup(1842-1902)、デンマークの政治家


2.投票先を選ぶ時の視点

多くの有権者が投票する際に重視している3つのポイントが紹介されていました。

①党の綱領と思想的根拠(イデオロギー)

②党の主要な政治家

③党に投票する人々と自分を同一視できるかどうか

この3点に加えて、有権者は現職の政府がどれくらい上手く課題を解決してきたと考えるかをふまえて投票するそうです。

 

日本の選挙では、実績に基づいた判断を仰いでいる印象がありますが、それ以外にも政党の評価の仕方があるのだと気づきました。社会科の教科書に、このように「投票先を選ぶ時の視点」が提示してあること自体も面白いなと感じましたし、それが若者の投票率を上げている要因の一つなのかもしれないと思いました。


3.政党青年部

 各政党に「党員」として関わる方法があることが明記され、「政党青年部」の存在も示されていることが印象的でした。

 党員に関して、『1947年には、有権者の27%がどこかの政党の党員でした。今日、党員は6%未満です。』という記載がありました。日本の1%~2%程度と比較すればデンマークの6%未満という数値は大きいように思いますが、民主主義の根底にある存在として、この数値の低下に問題意識を向けさせる記述はおもしろいなと感じました。

 また、政党青年部に関して、『ほとんどの党は青年組織を持っています。ここでは、若者が参加して将来の政策に影響を与えることができます。さらに、彼らは政治組織で働く方法を学ぶことができます。』という説明がされていました。日本では政党学生部の存在が教科書に書かれていることはないかと思いますが、このような記述があることにより、政治に関心を持った生徒が入部するきっかけとなっているのかもしれません。


4.党議拘束

 「党議拘束」について中学生向けの教科書で触れられていることも、日本の教科書との違いであると感じました。

党議拘束について「国会での重要な投票では、たとえそれが議員自身の信念に従っていなくても、議員が政党の決めた方針に従うことが期待されます。さもなければ、党が決定要因となることが難しいからです。しかし憲法は、一人ひとりの議員が信念に従って投票する権利を保証しています。個々の議員が党と異なる方法で投票することも珍しいことではありません。」という記載があります。

 実際、日本でも議会における議員の投票は、党議拘束によってほとんど決められていますが、そのことを知らない人は多いのではないでしょうか。これをしっかり中学生の段階で伝えることは、選挙の際の国民の政党選択が重要な理由を説明していることになると思います。


5.政党助成金

 政党助成金に関して、「 政党は州(国)からの財政的支援を受けることができます。前回の国会議員選挙に参加した政党は、前回の選挙で党が獲得した1投票ごとに20DKK(日本円で約330円)を受け取れます。ただしそのためには、党または候補者が1,000票を超える票を獲得している必要があります。同様に、地方自治体および地方自治体および地方選挙の当事者に補助金を提供します。」という記載がありました。


日本の政党助成金は1人あたり250円程度なので、金額にそこまでの差はありませんが、やはり教科書にこの事実を明記し、国民全員が知っておくべきこととしていることと位置付けられていることに違いがあります。

 また、政党助成金などが必要な理由として、教科書の中に「すべての当事者が選挙運動のための財政的基盤を持つことを確実にしなければなりません。」という記載がありました。民主主義にすべての人が参加し、希望するすべての人が議員になる・政党をつくるといったアクションを取れるということを重視するデンマークらしい考え方であるなと感じました。


パート②政党説明

2019年国政選挙中のまちの様子


以降では、それぞれの政党について詳細な説明がされていました。

政党は与えられている政党の記号であるアルファベットの順に紹介されます。

紹介の中身では、その政党がどのような社会的背景のもとで成立したのか、議席数などでどのような経緯をたどってきたのかといった背景について。また、大切にしているイデオロギーや、重視する政策・政策方針が紹介されています。

政党ごとの違いを政策分野から捉えられるので、自分の考えと近いか遠いかを考えやすいと感じました。また章末には、授業でディスカッションしたり、さらにつっこんで調べ学習するための問いが紹介されているので、知って終わりにならない工夫がされています。


2019年次の政党・選挙の争点については、こちら

2019年次の選挙の結果については、こちら


選挙期間中に広場に出た政党のテント


A 社会民主党(Socialdemokratiet)

1871年に、増え続ける労働者階級の利益を守るために成立しました。1924年に最大政党になったのち、政権を獲得した回数は最多です。労働者の団結、社会的強権の克服などを掲げ、教育・統合・社会政策の3分野を重視しています。

良い人生や夢の達成を実現する機会をもつ権利について、「少数だけでなく、大多数だけでなく、全員です。 それ以上のことはありません。(2004年政党綱領)」と述べているのが印象的です。


B 急進左翼党(Radikale Venstre)

社会で弱い立場にある小作農の人々に対する政策について、Venstreへの不満から1905年に分離し結党されました。中道の立場から左派・右派両方と協力でき、「人々が自然と調和して尊厳を持って生活し、民主主義を保護し拡大できる社会(1997年政党綱領)」を目標にしています。民主主義・国際協力・環境を政策として重視しています。


C 保守党(Det konservative Folkeparti)

新憲法の成立に伴い、1915年に設立。強力な防衛・労働税の軽減・責任の下で、自分の人生を生きる個人の自由の3つを重視しています。

2004年の政党綱領では、「自由と責任は同じコインの両面」としたうえで、個人を信頼し自由に幸せを追求すると同時に責任を負うということをイデオロギーとして説明しています。


F 社会主義人民党(Socialistisk Folkeparti, SF)

1959年にソ連のハンガリー侵攻に反対したデンマーク共産党の議員により設立されました

。資本主義に反対し「危機と戦争を生み、人類の安全と存在を脅か」すと述べてきます。

環境・ 外交政策・未来の福祉の3つの政策を重視し、「個人の自由で多様な開発が、社会全体の発展の目標であり手段でもあることを望んでいます(2003)」のように、個人と社会が両輪で発展することを目指しています。


I  自由連合(Liberal Alliance)

2008年に、政治ブロック間の同盟関係と、政治家と有権者間の同盟関係を構築することを目的に設立されました。自由連合は、「天井が高く、さまざまな態度を受け入れる余地のある自由主義を特徴とする社会を求めています。 人間として、十分なゆとりが必要です。(2008年綱領) 」と述べており、自由を第一に考えているのが特徴です。


O デンマーク国民党(Dansk Folkeparti)

1995年に設立された、保守的で民族主義的な党です。移民政策・社会政策・EUの3分野を重視。党の目的は、「デンマークの独立を主張し、自国のデンマーク人の自由を確保し、民主主義と君主制を維持し拡大すること」と述べています。


V 自由党(Venstre)

1870年に議会主義の導入を図ることを目的に設立されました。かつては農民の利益を守る党でしたが、現在は都市の人々のアピールする政党へと変化、青ブロックの第一党です。研究開発・国際協力・統合の3分野を重視しています。自由について、「強制の欠如を意味しますが、その人は自分の人生に対する責任を負い、他の人とコミュニティに対する共同責任を負うことでもあります。(1995年綱領)」と述べていました。


Ø 赤緑連合(Enhedslisten)

1989年にいくつかの左翼の小さな政党が合併して設立された、社会主義社会の考えに基づく連合です。多くの政党が福祉を削減することに同意する中、 赤緑連合は労働組合、教育希望者、草の根組織に、より福祉のための運動に参加するよう呼びかけています。

グローバルな正義・みんなのために働く・平和と安全の3分野を重視しています。


まとめ


今回は、デンマークの社会の教科書の一部を要約してまとめてみました。政党パートだけでも、デンマークらしさが現れているのではないでしょうか。

「投票しよう」と言っても、どう投票していいかわからない。どの党を、どんな基準で選べばいいかわからない。そんな疑問を、デンマークでは中学の教科書で学ぶことができるのは羨ましいなと感じましたし、日本の教科書でもいつか取り入れられたらいいなと想像しました。

教科書の他の部分についても、今後まとめていけたらと考えています。