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試験も成績もない「人間を育てる学校」フォルケホイスコーレとは?

こんにちは。デンマークに来て約5ヶ月、私はフォルケホイスコーレという学校で生活しています。「デンマークでどんな学校に行ってるの?」「フォルケホイスコーレって何?」とよく聞かれるのですが、未だに上手い表現の仕方がわかりません。
そこで今回は、フォルケホイスコーレとはなんぞや?ということを、私が通っている学校(Krogerup Højskole)をベースにまとめていきたいと思います。



フォルケホイスコーレとは?

フォルケホイスコーレホイスコーレとはどのような学校なのでしょうか。フォルケホイスコーレを紹介するサイトIFASでは、以下のように説明されています。
フォルケホイスコーレとは、北欧独自の教育機関です。フォルケホイスコーレの特徴は、試験や成績が一切ないこと、民主主義的思考を育てる場であること、知の欲求を満たす場であることです。加えて、全寮制となっており、先生も含めた全員が共に生活することなども代表的なフォルケホイスコーレの文化です。生徒はみな国籍関係なく国からの助成金を受けることができ、学費の一部を払うだけで入学できます。(中略)現在では1918年時点とほぼ同数の70校前後があります。統廃合された結果今残っているものの多くは、特定の分野に特化し個性を持った学校です。特化された分野はアート、スポーツ、哲学、福祉など様々ですが、今でも創始者の目指した知を変える場所であることや、民主主義を育てる場所であることはどの学校も一貫して守られています。  

フォルケホイスコーレの歴史

フォルケホイスコーレという教育機関は、デンマークの教育学者グルントヴィ(1783−1872)によって構想されました。グルントヴィは民衆の社会的・文化的向上とそのための母語からなるデンマーク精神の復興を目的に、フォルケホイスコーレのコンセプトの元となる民衆教育機関を発案します。それはまさしく「生のための学校」という教育思想であり、フォルケホイスコーレの沿革に影響を与えました。1864年のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争での敗戦以降、グルントヴィ主義者によって、これまで社会階級により受けられる教育が制限されていた農民への学校としてフォルケホイスコーレが次々に建てられ、1892年にはフォルケホイスコーレ法が成立しました。

正解がない。間違いもない。人間を育てる学校

フォルケホイスコーレと大学との違い

私が思うフォルケホイスコーレと大学との違いを5つにまとめてみました。
  1. 試験と成績がない/単位もない
    フォルケホイスコーレは学びの場です。ただし、試験と成績はありません。つまり、単位もでないということです。その中で自分の興味に合わせてコースを選び、授業を受けます。自分は何のために学校にいるのかを問われます。

  2. 共同生活
    フォルケホイスコーレは全寮制の学校です。主に3〜6ヶ月の期間朝起きてから寝るまで誰かと共に生活します。授業だけでなく食事・掃除・自由時間も友だちと過ごすことで、深く知れるからこそいい面だけでなく悪い面も見えてしまう。人と「関わらない」という選択は難しいが故に、人とのコミュニケーションが大事になります。

  3. 先生との距離の近さ
    生徒と先生はそれぞれを名前で呼び合います。校長先生やメインコースの先生は学校の近くに住んでおり、ときには先生の子どもたちも一緒にご飯を食べ、「先生」だけではない先生の側面を垣間見えます。また、私の学校では各授業の先生の家で夜ごはんを食べるというイベントがありました。先生の家に実際に行き、先生のパートナーを紹介してもらい、生活の様子を知り様々な話をすることで、心理的な距離感はぐっと近くなります。

  4. 授業方法
    ひとクラスの人数は15人程度。先生が生徒に一方的に知識を教えるという形は少なく、プロジェクトやディスカッション、プレゼンテーションなど対話を重視した様々な方法で授業が構成されます。ゲストスピーカーを招いてワークショップを行ったり、街や施設を訪れる校外学習のようなものもあったり、授業方法は様々です。

  5. 生徒主体の学校
    授業以外の学校生活はほとんど生徒が主体で行われます。学生全体を15人程度ずつに分けたフェローシップグループで構成されます。このフェローシップグループは、掃除の担当や食事の片付け、毎週末のパーティーの主催などが割り当てられます。そのグループの中から1〜2人生徒会メンバーとして活動し、なにか学校で問題が起きた場合、その生徒会が中心となり議論を行います。週に1度全校生徒集会があり、生徒会が仕切り、必要なときは提示した議題に対しみんなで話し合います。
    授業後のクラブ活動やイベントも生徒が仕切ります。カンバセーションクラブやクリエイティブクラブ、ムービークラブなど、様々なクラブが存在します。イベントも生徒が生徒同士で考え、全体を巻き込み実行します。自分たちのやりたいことが実現しやすい環境が整っているとも言えます。

    学校の庭で焚き火をします。

フォルケホイスコーレで大事にされていること

フォルケホイスコーレを語る上で大事なポイントは以下の3つです。
  • 対話
    授業には、これ!と決められた教科書はありません。あるテーマや議題に対して、対話をして議論を深め答えを導き出すということを中心に授業は行われます。学校は街から離れたところに建てられているので、自由時間は学校の中で友だちと過ごすことがほとんど。その中でも、自然と対話が生まれていきます。
  • 民主主義
    一人ひとりの意見が大切にされます。授業運営も、生徒が学びたいこと・やりたい方法を積極的に提案できます。生徒会では、学校で起きる問題に対し最終的にすべての人にとってどういう結論がベストなのかと考えます。
    生徒の意見を集めるdemocracy box
  • 自主性
    「自分が何を学びたいか」が重視されます。試験も成績もない学校では、言ってしまえば授業の参加もその人次第。授業外の時間の使い方も、その人が何を大事にしたいのかが問われます。授業以外の学校生活の過ごし方も様々。生徒がイベントを発案し実行します。

学校によって異なる特色

一概にフォルケホイスコーレといえども、学校によりその特色は異なります。民主主義が強い学校、アートが強い学校…と、デンマーク全土、70校近くから自分の興味に合った学校を選ぶことができます。私が訪れたフォルケホイスコーレを4校紹介します。

クローロップフォルケホイスコーレ

第二次世界大戦の終戦直後に作られ、デンマークの民主主義を作り上げたキーパーソンの1人とも言われるハル・コックが初代校長を務めました。そのため、現在でも民主主義や政治に対する学びを深めることを目的とした学生が多く滞在しています。全校生徒は100人程度で、18歳から23歳が多数を占め、約2割のinternational studentsはcrossing bordersというメインコースに所属しています。コペンハーゲンから電車で約40分の場所に位置し、ルイジアナ美術館が近く、学生は無料で利用することができます。

生徒がご飯を食べるダイニングホール。英語で話そう!と、「マンゴー」という合言葉があります。

ブランビャオフォルケホイスコーレ

ブランビャオホイスコーレはコペンハーゲンから250kmの郊外にあり、豊かな自然を楽しむことができます。18歳から30代の生徒80人ほどと多様な先生、スタッフが共同生活を通じて「家族」のように感じるコミュニティをつくることを大事にしているとともに、アウトドア、音楽、瞑想、プロジェクトマネジメント、ダンスなど様々なクラスが用意されており、生徒の好奇心の赴くまま好きなことを探求する環境があります。学校の校舎の屋上には学校のモットーである「Hvad drømmer du om?」(あなたの夢は何ですか?)と書かれているなど、自分の人生について考える機会を大切にしている学校でもあります。

学校議会の様子((二週に一度予算や現状の問題について話し合います)

ノーフュンスフォルケホイスコーレ

フュン島に位置するノーフュンスホイスコーレ。オーデンセからバスで1時間弱のところにあります。日本人の千葉忠夫さんが日欧文化交流学院として建てられ、現在はフォルケホイスコーレとして続いています。全校生徒は約80人、デンマーク人、ハンディキャップを持つ方、アジアやアフリカ諸国等世界各国からの学生等様々な人々が共に学びます。
社会福祉やデンマーク語、サステナビリティなど、様々な授業を組み合わせて学ぶことができます。
サウナが設置されています。

IPC(international people's college)

IPCはその名の通り、国際交流を主としたフォルケホイスコーレです。世界市民の育成を学校の中心となる理念としております。そのため授業は全て英語で行われ、ヨーロッパやアジアなど約30カ国以上から学生が集まります。デンマークの文化よりも、国際色が強い学校です。

デンマーク人にとってもユートピア?

よく日本人のブログでは、フォルケホイスコーレは「自分を見つめ直す大人の学校」と語られます。またデンマーク人にとっても、フォルケホイスコーレという学校は特別な存在であると思います。街から離れた場所で、新しい人々と出会い数ヶ月寝食を共にする。親や社会の束縛がない、いわゆる「何もしなくてもいい」数ヶ月間を保証してくれるようなものでしょうか。
デンマーク人の子たちに、「なんでフォルケに来たの?」と質問すると「自分の興味や将来を考えるため」とか、「今通っている大学の専攻が合わないような気がして、それを確かめるため」とか、「ギャップイヤーの一環で、遊びに来た」「友だちを作りにきた」とか、「親と離れてフリーになるため」と様々。それでも共通しているのは、フォルケで出会った仲間とフォルケにいる時間を楽しもうという心です。
一方で、小・中・高・大と教育費が無償のデンマーク。それに対し、フォルケホイスコーレは有料です。テストや成績がないのにも関わらず、授業にちゃんと出席し取り組む姿勢や、フォルケを存分に楽しもうとしている姿は「自分で行くことを決断し、お金を払っている」という事実が影響しているのではないかな?と思います。
学校で行われる音楽フェスティバルに向けて準備。

「自分は何がしたいのか?」を問われる学校

フォルケホイスコーレの意義とは

フォルケホイスコーレという学校の意義には、どんなものがあるでしょうか。もちろん通う人それぞれにそれぞれのフォルケホイスコーレ意義というものがあるでしょう。ここでは、私がぐっときた校長先生の話を紹介します。

この学校でするべきことは、
Who are you?
Why are you here?
What is the purpose of your life?
を見つけることだ、と。
学校の中の流れに従えばいいというこの特別な数ヶ月間はもう一生訪れない。
だから、とにかくこの学校にいる時間を楽しむことが重要である。
そして、この学校が大事にしているデモクラシーとは何か。
デモクラシーとは、生きること、文化、生活する方法である。
もしあなたが社会の一員になりたいのだとしたら、あなたはその社会の中で生きる責任を持つ。だからこの学校では、何か特定のことを教えるのではなく、批判的な思考力や責任感を育み、デモクラシーを教えることを大事にしている。デンマーク全土から、世界中から人々が集まることで、お互いを知り、自分を高め、どうやって社会の一員になるのかを知ることが、この学校で大事なことだ。

社会の流れから少し隔離され、何をするのも、何もしないのも自分の決定である。自由だからこそ、「自分」を問われる。そして授業や生活を通して、自分は「社会」に対して何ができるのかを考える。それが、フォルケホイスコーレの姿なのかもしれません。

まとめ

フォルケホイスコーレとは
  • 一旦立ち止まり、自分のことを見つめ直す学校
  • 自分の中の小さな興味の種を育てていく学校
  • 社会の一員となるための社会性を育てる学校
といえるでしょう。徐々に日本人留学生が増えてきているフォルケホイスコーレ。このような学校がデンマークに長く存在する理由が、今のデンマーク社会を作り上げてきたと感じます。