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【デンマークの小学校訪問ルポ】社会福祉国家デンマークを創る小学校教育の本質とは?


デンマークといえば、「教育」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。デンマークのクリエイティビティや知的好奇心を育む教育は、日本でも度々話題に取り上げられます。そのデンマークの教育は、高福祉・高負担の社会福祉国家を支える国民を創っています。どのようにして「デンマーク国民」は生まれるのでしょうか。

そこで先日、私はデンマークの公立小学校に訪問してきました。デンマークでは、日本の小学校・中学校が合わさった学校を「国民学校」といいます。(この記事では5年生の学年を主に取材したことを踏まえ、「小学校」と表現します。)今回は実際に見学してみて感じたことを書きたいと思います。



デンマークの教育制度について

まず、基本情報としてデンマークの教育制度のおさらいを。デンマークの教育制度は、基本的にこの3つの特徴で語られます。

①小学校から大学院まで無料の教育費

デンマークでは小学校から大学院まで基本的に教育費は無償です。親の所得に限らず、お金をもらえます。(大学生では国から約10万円も支給されるとか)

②10年間の義務教育と「0学年」と「10学年」の準備期間

デンマークでは、6歳から16歳の国民学校期間が義務教育として数えられます。さらに、国民学校の下に「0学年」、上に「10学年」が設置されているのが特徴です。「0学年」は、6歳に達しても国民学校の教育についていけないのではないか等の理由から国民学校準備期間として選ぶ事ができます。さらに「10学年」は、高等学校入学前の猶予期間(ギャップイヤー)としても使われます。デンマークでは国民学校卒業時に将来の進路の選択を考えることが重要視され、その際に将来の進路を決めかねている生徒、高校進学に対し学力面で不安を感じている生徒等がとる高等学校準備期間とも言えます。日本では浪人や留年と捉えられかねないこの期間ですが、デンマークでは約半数が10学年を選択するようです。

重要なのは、結果として生じる1.2歳の差は何の問題もないということです。この期間を取るのは個人の選択として尊重され、それによっていびられることはありません。

③民主主義、福祉社会の考えを根底にした教育方針

デンマークの全ての根幹にあるが「デモクラシー」。それ故に、学校教育の目的の一つは「生徒に民主主義を教えること」です。話し合いや対話を重視し、物事を決める過程で他人の意見を尊重し、自分の意見をはっきり述べることが大切であることを学びます。

デンマークの教育予算について

デンマークは教育予算費がOECDでも高い国のうちの一つ。OECDが公表したGDPに占める小学校から大学までに相当する教育機関への公的支出の割合をみてみると、デンマークは6.2%、日本は2.9%であることがわかります。


しかし最近は高齢化や移民の増加などによりデンマークの財政は厳しく、教育費が削減されつつあるようです。

学校の様子

私は現在通っているフォルケホイスコーレの近所にある「Humlebæk Skole」を訪問し、5年生(10〜11歳)の授業に参加してきました。

時間割

長い時間休憩のあとは、約20分間の準備タイムが設けられています(赤い部分)。授業に集中するため準備時間で、ここでは、宿題をしたり本を読んだり、何をやってもいいそうです。確かに、お昼休みのあと突然授業に集中なんてできないですよね。
写真の説明はありません。

校舎の様子

画像に含まれている可能性があるもの:室内
図書館にはソファーもおいてあります。
画像に含まれている可能性があるもの:室内
朝の会はここで。

クラス

多くても一クラスに生徒は28人まで。この学校では、3クラスに分かれています。先生は一クラスに2人。そのクラスで何をやるか、ということはクラスの先生に一任されています。先生と生徒はニックネームで呼び合い、とても近い関係。対話により生徒の様子を気にかけ、把握しているようです。
画像に含まれている可能性があるもの:座ってる(複数の人)、テーブル、室内
4人1組の席で授業を受けます。
デンマークの小学校
中にはソファーがある教室も。ここで学年全体に先生が指示を出します。

校庭

デンマークの小学校
しっかりとしたサッカーコート。人気のスポーツはやはりサッカー。


英語教育

1年生から英語の授業が始まります。1年時は1週間に1クラスだけ。内容は「クリエイト・モンスター」。ボディーパーツや色についての単語を学びながら、モンスターを創っていく…というように、楽しみながら学ぶことが中心になっているようです。5年生になると英語の授業は1週間に3クラスと増えていきます。スラスラ英語が話せる子もちらほら。どこで英語を習ったの?と聞いたところ、「学校で!」と答えていたので、小さい頃から「話す」ことを大事にした教育が、デンマークの進んだ英語教育の源かもしれません。

PC・iPadをみんな使っている

一人ひとり自分のiPadやPCを持参しています。持っていない子には学校側が支給。iPadやPCを使った授業がよくなされるようです。

画像に含まれている可能性があるもの:画面、室内
電子黒板は各クラスに設置されています。


実際の公立小学校の授業の様子は?−プロジェクト発表会−

訪問した日はちょうど1週間かけた大きなプロジェクトの発表会。5年生のクラスに参加させてもらいました。プロジェクトの大きなテーマは「change the world」。それぞれグループを組み、テーマに沿って調べ、スライドを作り、発表するという形です。生徒たちが選んだテーマはイーロン・マスク、アップル、9.11…とバラエティ豊か。

画像に含まれている可能性があるもの:1人、画面

画像に含まれている可能性があるもの:1人、画面、室内
まだちょっと恥ずかしいのか、たどたどしいプレゼンがとてもかわいい。

なにより、その発表方法に驚きです。生徒たちは自分のパソコン・タブレットでスライドを作り、発表しています。私が小学生の頃は、模造紙に書き込んで発表というのが通説だったような…。時代の移り変わりを感じてしまいました。さらに、あるグループは「kahoot!」というクイズサイトをプレゼンの中に。スライドで発表した内容の復習などをクイズ形式で行うことで、より発表に活気が生まれます。私も、デンマーク語がわからないながらも参加しました。そしてフィードバックタイム。先生だけではなく様々な生徒が手を挙げ、発言します。聞く態度はできていないけど(寝転がったり)、生徒たちの聞く力には驚きです。


実際の公立小学校の授業の様子は?−アートクラス−

アートクラスの授業にも参加させてもらいました。その日は、学校の中にある「なにか」に紙を当てて、その上から色を塗る!という授業。正直、小学校5年生でこの授業!?と思ってしまう内容でしたが、特にアートクラスはフォーマルではない授業形態のようです。



7年生から授業はアカデミックよりになる模様。それまでは、「学校が楽しい!」と思うことが重要で、友だちと協力する、クリエイティビティを育む教育が中心のようです。

子どもたちがかわいすぎる…

なんといっても、とにかく子どもたちがかわいすぎます。恥ずかしがりながらも、私たちに話しかけ、学校の案内をしてくれました。まだ完璧ではない英語を使いながら、たくさんお話してくれます。

画像に含まれている可能性があるもの:1人以上、木、空、靴、屋外


なんでこんなにもピュアなんだ…と、思ってしまうくらい、子どもたちは子どもらしく、とてもかわいい。擦れた私の心にズシッと子どもたちのピュアさがきてしまいました。

画像に含まれている可能性があるもの:室内
学校中に絵がたくさん。

デンマークの教育の本質とは

どんな姿勢で聞いててもいい?大事なのは「聞く力」

まず驚いたのが、生徒の聞く姿勢。寝転がったり、ロッカーの上に座ったり、机の上に座ったり、まさに「お行儀が悪い」状態。それでも先生は注意しません。そのお行儀の悪さと対照的に際立っているのは子どもたちの「聞く力」。先生や友だちが何を言っているのか、それに対して自分はどう思うのかというもののベースとなる「聞く力」は、非常に高いと感じました。先生が話し始めると一瞬で静かになり、私語があれば、みんな「シー!」と合図をします。

デンマーク語が母語ではない子への対応は?

この学校では、デンマーク語が母語ではない子の割合は17%。他の地域に比べて少し多いようです。誰も遅れさせないようにと、2年前までは「reciving class」という、その子達向けの+αのデンマーク語があったようですが、現在はなくなった模様。それも、国の移民政策の影響を受けていると先生方はおっしゃっていました。現在生徒は、デンマーク語がわからなくてもそのクラスに放り込まれてしまうという…。

先生と生徒が平等

先生と生徒はニックネームや下の名前で呼び合います。日本では常識である「〇〇先生」という言葉は存在しません。先生と生徒は、先生と生徒である前に一人の人間として平等であり、対等であるという認識は、特に先生から感じることができました。生徒を子供扱いするのではなく、一人の対等な人間として接することは、「先生に認められる」といった感覚を薄くし、生徒の自主性を向上させてくれるように思います。

一個の正解ではなく、自分なりの正解を見つける

先生は、「〇〇して」とは言いません。「どう思う?どうしたらいいかな?」と問いかけることで、生徒が自分なりの正解を見つけることを促します。何か一つの正解や目的に向けて動くのではなく、生徒自身が考えます。これは、生徒たちが「意見を言う」という行為を促し、その意見に正解/不正解はないという認識を与えてくれるものだな、と思います。どうしても自分の意見を言うときに「この意見は正しいだろうか?」と考えてしまいがちです。

しかし、多様な意見が存在することを知り、意見自体に正解/不正解がないということを知り、一つ一つの意見を尊重し、考え、新たな発見を得る。その訓練が小さい頃からなされているのは、とても羨ましいと感じざるをえませんでした。

先生たちが大事にしていること

教育において最も重要なことは?という問いに対し、
「Democracy, all be equal and respect human rignt」 と先生方は言います。

例えば、生徒が先生に対し「授業がつまらない」ということは簡単です。しかし重要なのは、それが原因・理由が明らかであり自分はどう考えているのか、ということです。オフィスに来て、これはこうしたら?という民主主義的プロセスを踏んだ提案なら、先生方は話を聞くといいます。

さらに大事にしていることは、「協力することを学ぶこと」と「自分ですることを学ぶこと」です。いろいろな人と一緒に生活をすると、ある人は賛成でも、ある人は反対である、ということが度々出てきます。その度に、話し合い、意見をミックスしてベストを導き出す、この「デモクラシー」の精神は、プロジェクトを中心とした小学校の授業で培われます。

まとめ

デンマークの教育関係者の方々に話をお伺いすると、決まって「デモクラシー」と言われます。それは小学校でも例外ではありませんでした。

教育は特に国の政策が反映される分野です。その国がどういう人材を育てたいか、どういう国民を育てたいかという問いの答えが教育政策にある気がします。これまで、高度な福祉社会を維持してきた根底には、「デモクラシー」という考え方がありました。

他人の意見を聞き、自分の意見を言い、話し合いを重ねベストな答えを導き出す。

この、生きていく上で一番重要なことを、小さい頃から繰り返し学んでいく。文字上ではなく、主体的に、生活する中で学んでいくことで、デンマーク人の中に民主主義は育っていくのだなということを感じました。

システム・価値観ともに異なり、「クリエイティビティや知的好奇心、楽しむという心」を重要視しているように思うデンマーク。それでもデンマーク人たちは、デンマークが競争社会になりつつあるといいます。

国政選挙が6月に控え、今度デンマークの教育事情は一層変化を増すでしょう。国の政策がどのように変わり、その中で、どのような教育が今後重視されていくのでしょうか。