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【インタビュー】大学生を代表するロビー団体、ジュリアンさんのデモクラシーとの関わり方

デンマークの大学生を代表してロビー活動をする団体があると知り、今回わたしたちがインタビューに伺ったのは、Dansk Studerendes Fællesråd(以下DSF)/英:The National Union of Students in Denmark の執行部に所属するJulian(ジュリアン)さんです。

「ロビー活動」とは、特定の利益をはかるために政治家や政党などにはたらきかけ、政治的決定に影響を及ぼそうとする活動のこと。ロビー活動というと利益団体と政治家との癒着などをイメージし、日本ではあまり良い印象を持っている人は少ないかもしれません。しかしデンマークでは、ロビーイングはむしろ国民が政府の決定に直接的に関わることを可能にする、民主主義を保障するものとしてポジティブに捉えられています

そんなデンマーク社会で、「大学生の立場を代表するロビー団体」として、大学生と政治をどのように繋げているのか。そして、同世代のいち大学生として、ジュリアンさん自身の社会や政治に対してどんな想いを持っているのか、どのように関わっているのかについて伺いました。



(聞き手:黒住 奈生、瀧澤 千花、高槻 祐圭/インタビュー:2019年5月21日/編集:高槻 祐圭)





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Profile:
Julian Lo Curlo さん
コペンハーゲン大学 大学院でglobal developmentを専攻。
現在は休学中でDSF(The National Union of Students in Denmark)の執行部で働いている。
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DSF(The National Union of Students in Denmark )とはどんな団体か?


―まずは、DSFについて教えてもらえますか

DSFは、どこの政党からも独立している、学生による政治組織(political organization)です。デンマークにある全ての大学8つと、その他の専門学校を合わせて16の高等教育機関の自治会が所属していて、そこに属する約15万人の学生たちの利益を代表し表明することを目的としています。メンバーである各学校の生徒会は、その学校のために活動をします。例えば、学祭を運営したり、行内の雑誌を発行したり、学校の備品を管理したり。


生徒会を束ねるDSFは、全国レベル(national)の組織です。全国の学生たちで連携することで、「より良い質の良い教育」や「1人で自立して生活できること」「より良い人生を歩むこと」など、集約された、より大きな声をあげることができます。

DSFと同じような、その国の学生を代表する組織がヨーロッパ各国にあり、それらが参加するEUレベルのESU(European Students' Union)も存在しています。

青く塗られているのがESU加盟国(https://www.esu-online.org/about/ より)


学校、国、EUと3つの段階に即して組織があり、意思決定や自治はできるだけ小さい単位で行うということを大事にしています。小さな単位ではできない時にだけ、より大きな単位で補完して解決を目指し*ます。(*原理補完性)
例えば、DSFはコペンハーゲン大学に対してロビー活動をしません。コペンハーゲン大学に対するロビー活動は、コペンハーゲン大学の自治会の仕事です。逆に、EUに対するロビー活動はDSFだけではできないので、ESUが行うんです。


次に、DSFの内部の構造はこのようになっています(下図)。

General Assembly が議会のようなもので、年に2回開催されます。全ての学生に開かれていて、投票権も全ての学生が持ち、そこで8人のBoardメンバーを選挙で選びます。それに加えて各学校を代表する8人が選ばれ、計16人がBoardメンバーになります。Boardメンバーは月に一度集まってミーティングをします。
Executive Committeeでは、5人のメンバーが少額の給与をもらいながらフルタイムで働いていて、DSFのガバナンスを担当します。この2つがいわゆる行政府です。僕はこのExecutive Committeeに所属していて、大学院を休学して活動しているんです。




DSFの活動内容

-しっかりとした学生組織が成り立っていますね。実際にはどれくらいの数の学生がこの組織や活動に関わっているんですか?

それは団体にもよるし、どのレベルの活動を見るかにもよりますね。例えばコペンハーゲン大学の場合、全ての学生に開かれているとはいえGeneral Assembly に参加する学生は約4万人中約80人です。なので、生徒による直接的な参加率が高いとは決して言えませんね。
だけど、キャンペーンやボランティア活動、デモなど、よりローカルなレベルのアクティビティに参加する人の数はもっと多いです。デモなどを開催すれば、2、3千人の学生たちが参加することもあります。

また、DSFに運営側としてより深くコミットしようと思うと、時間も労力もたくさんかかります。学生たちみんなにそのレベルの参加を求めることは、現実的ではないですよね。僕はExecutive Committeeに参加していますが、この活動に専念するために休学しているんです。それくらい忙しいんです。

たしかにDSFはデンマークの学生を代表する組織としては、まだまだ不足している点もあるので、代表する学生たちの割合を常に上げられるように努力しなければならないですね。とはいえ、DSFは今デンマークで最も多くの学生を代表する組織であることには変わりは無いです。

ーロビー活動とはどんなふうに行っているんですか?

政治家たちの会合に学生代表として呼んでもらい、政策や政党の方針などを聞き、学生目線で議論に参加します。政治家に直接電話して話したり質問することもあります。また、政治家よりも学生たちの方が現場をよく知っている場合には「実際何が問題になっているのか」を説明することもあります。「その方針だと学生からの評判は落ちるよ」と政治家に伝えることもあります。

僕たちは全ての政党と話をしていますが、ロビーの仕方は相手に応じて聞き入れてもらえる権利を主張していきます。例えば反移民を掲げる政党には留学生の権利を主張しても聞き入れてもらうことは難しいでしょう。彼らには、貧しい学生の事情や、身体の不自由な学生の事例を説明したり、彼らの権利を主張したりします。

ただ、他の国々と比べると実は、デンマークではこういった会合の頻度が少ないのが課題です。
対外的には、メディアに記事を取り上げてもらったり、インタビューなど取材に応じて発信したり、デモなどのイベントを開催するなどもしています。こういった広報活動は特に力を入れています。他の団体と協力することも多いですね。

DSFのメンバーがメディア出演した際の動画を見せてくれるジュリアンさん



国政選挙に向けた取り組み

ー2週間後(取材当時)には国政選挙がありますね。選挙に向けてどんな活動をしているか教えてください

DSFとしては政治家たちも交えたディベートに参加して、政治家の提案や選挙の争点について学生代表の意見を主張したり、質問したりしています。大学でイベントを開催したり、デモの主催もしています。それに加えて最も力を入れているのはSNSを使った発信です。グラフィックやポスターを作ってTwitterやInstagram、Facebookなどに投稿しています。

この選挙におけるDSFのゴールとして、僕たちは以下の4つの主張を掲げています。
①高等教育を受け直したりする際の制限をなくす
②SU(デンマークの高等教育機関の学生又は18歳以上の学生が国からもらえる月約9万円の補助金)を保障する
③教育への予算カットを止める
④学生のストレスを減らす。より勉強に集中できる環境を提供する

STEM UDDANNELSE Facebookページより


また、citizens proposalも推進しています。citizens proposalとは、ある提案について5万人の署名が集められるとその内容を国会で議論してもらえるという制度です。DSFでは「SUの削減反対」の提案をしていて、5万人の署名を目指しています。

ー学生たちの間でのホットなトピックは何ですか?

学生とひとまとめに言っても個々の関心は様々です。教育の質や一人暮らしをするための住居など、まともな生活をするために必要なことを考えている人が多いんじゃないかな。それに加えて今回の選挙(2019年のデンマーク国政選挙)では、若者の中で気候変動が大きな争点となっていますね。


ー国政選挙(2019年)後に期待していることはなんですか?

何らかのポジティブな変化が起きてほしいですね。教育への予算カットが無くなれば嬉しいです。政治家の中には選挙前に様々な良いことを約束しておいて、結局実現してくれない人もいます。しっかりチェックしたいですね。


政治への関心

ー日本では「若者は政治に関心が無い」と言われていて、実際に若い人の投票率は40%前後なんです。一方でデンマーク人は投票に行きますよね。どうしてそんなに政治参加が盛んなんだと思いますか?

うーん、そうですね…。「楽しいから」というよりは、より良い将来にしたいから「必要性に駆られて」という言い方が近いんじゃないかな。だけど、政治への参加の仕方は人によっていろいろあると思います。僕は学生を組織して政治と関わることに100%の力を注いでいるけど、デモに参加するとか、友達とバーで政治について話したり、Facebookに何かを投稿したり、それは全て政治参加ですよね。その社会との接点や影響力が違うだけです。

それに、デンマーク人でも国会の中での議論の内容や政治家たちのやりとりには興味のない人は多いと思います。だけど、街の道路が綺麗か汚いか、とか、教育費が高いとか安いとか、自分の生活に直接的に関わることには皆関心を持っています。本来はそういった「身の回りのこと全てが政治」なんです。だから、ある程度はみんな政治が気になっているんです。

ただ、「その興味や関心をいかに行動へと結び付けさせるか」が難しいことなんですよね。僕にもどうするのが良いのか、答えは未だ出ていません。また、僕たちの世代はSNSの投稿など選挙以外の政治参加の方法がたくさんあるから、みんなが共通の手段を取るっていうことが難しいのかもしれないですね。

―確かに日本では「身の回りのことが政治だ」と気づいている人が少ない気がします。

politicize(政治化)できていない状況なんですね。政治化する方法を知らなかったりとか、問題がきちんと整理されてないのかもしれないです。政治に対して積極的な人になるかどうかは、家庭や教育の影響も大きいですよね。そういう意味で、教育の役割は大きいです。


ー最後にジュリアンさん自身の将来について聞かせてください!

良い質問だね。将来のことは僕にもわからないよ、まだ決めていない(笑)
だけど、世界にインパクトを与えることをし続けていきたいな。特に国際社会に影響を与えられる方がいいな。

まとめ


まずは、分野やテーマ横断的に全国の大学生の意見を収集し、政治家に対してロビーイングする組織があることに驚きました。「デモクラシー」とは政治や選挙のことだけでは無く、そうやって様々な立場から社会へ声を届けることのように感じました。

また、大学教育までが無償で、教育や福祉の国として知られれデンマーク。私も今回お話を伺うまでは、「デンマークの学生って月に9万円ももらえていいなあ」ただそう感じていました。しかし、9万円の給付を受ける権利を掴み、そして掴み続けられているのは、一度手にした権利の上に胡坐をかかず、当人たちが常に政治に働きかけたり、選挙や政治参加を通じて学生の存在感や主張を示し続けているからなのかもしれない、そう感じさせられました。

このインタビューの後、わたしたちが感じたままに語り合った後記を、近日中に公開します!