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わたしたちが北欧で見たこと、感じたこと、そして、語りたいこと。
大学生たちが現地よりお届けします。

【ルポ】高校に潜入!世界第5位の英語力の育て方

デンマークのコペンハーゲン市内の高校に、なお・ちか・ゆうかの3人で行ってきました。
今回の目的は「デンマークの高校生はどうやって英語を学んでいるのか」を見ること。
デンマークの若者の英語能力はすさまじいもので、同年代の大学生だけでなく多くの高校生たちも日常会話レベルの英語はぺらぺらです。
その理由は教育にあるのか?授業見学と先生とのお話を通して考えてみます。


そもそもの高校見学の発端


デンマークに来て本当にすごいと思うのが、教育や仕事において英語が必要な人以外も英語をちゃんと話せる人が本当に多いこと。また、大学レベルになると、デンマーク人以外がいる空間では、デンマーク人同士の会話も英語でしていたりします。
(日本人がいるとついつい日本語でお互いは話してしまうなんて経験みなさんはないでしょうか)
実際に、世界最大の非英語圏の成人英語能力ランキングEF EPIでは、デンマークは5位(2018年)にランクインする、英語先進国です。ちなみに日本は88か国中49位です。

大学生の友人たちに「なんでこんなにみんな英語が話せるの?」と聞くと、
小さいころから英語に触れているからかな。音楽やテレビ・映画が英語のものが多いから」という風によく言われます。
これは確かにその通りで、人口の少ないデンマークではデンマーク語の文化がそれほど発展していません。日本では、外国発の本や映画はすぐに翻訳され、日本語で楽しむことができますが、デンマーク語はそういうわけにもいきません。だからこそ、イギリスやアメリカから輸入しているカルチャーに小さいころからみんな親しんでいるんです。

とはいえ、英語が「わかる」ことと英語が「使える」ことは別問題というのは、日本人は身に染みて感じていることのはずです。
ではデンマーク人の英語が「使える」はどこから来ているのでしょうか?
私たちはこの答えの一つは教育にあるだろうと考え、高校の英語の授業を見学させてもらうことにしました。そこでわかったのは、彼らがただ英語をたくさんしゃべっているだけではなく、すでに英語「で」学んでいるということでした。


デンマークの高校の仕組み

今回訪問させてもらった高校はNiels Brock Innovationgymnasium
私の友人が通っている高校で、経済やビジネスの中でもイノベーション教育を行っている学校です。
日本で言えば商業高校のような感じですが、イノベーションに特化という時点で日本と違うという感じですよね。

デンマークの高校には3つの種類があります。
1つ目は、国語から歴史から数学まで幅広く学ぶ日本の高校に近いもの。
2つ目は、科学や数学を学ぶ理数系の高校。
3つ目は、経済やビジネスを学ぶ高校です。

今回訪問したのはこの3つ目のタイプの学校で、その中でもいわゆる「経済学」とは異なるイノベーションに視点を置いた教育を行う学校です。
そのため、先生は社会人経験のある方がほとんどで、自分の実践経験も通しながら教えているとのことでした。

授業は1コマ100分間で、曜日によって0-4コマの授業があります。
試験や課題、発表などから成績がついて、この成績は大学進学の際の重要な指標になります。(デンマークでは日本のような大学入試はなく、高校の成績によって入学の可否が変わります)


まるで大学のような校内

校内には日本の高校には見られないようなものがたくさんありました。

まず一番驚いたのがこれ

SDGsのポスターが階段に貼ってあります。
SDGs (Sustainable Development Goals) は持続可能な社会を実現するために、国際的に定められた指標です。地球上にあるさまざまな社会課題を2030年までに解決するために、17のゴールを示しています。キーワードとそれを示すアイコンがセットで使われる場面が多いです。

案内をしてくれた友人は「ほとんどの人が存在くらいは知ってるんじゃないかな」と言っていました。
日本では朝日新聞社が2018年に行った調査によると、15-29歳の認知度は男性13%、女性14%と低い水準にとどまっています。
(参考)「【SDGsの認知度調査報告】世代や職業ごとの認知度やテーマ別の関心度が明らかに」朝日新聞社. https://miraimedia.asahi.com/awareness_survey/

これを高校生に限定すると、日本の高校生のいったい何割がこの指標の存在を知ってるんですかね。私も知らなかった高校生の一人ですが。


ほかにも、ちょうどEU議会選挙と国会の総選挙前だったこともあり、立候補者のポスターが貼ってあり、投票権を持っている高校生だけでなく、近い将来有権者になる高校生たちにも支持を促す姿勢が感じられます。
また、性交経験年齢が低いデンマークらしいsafe sexを促す啓発ポスターも見られました。

設備は、各階に自由にくつろいだり課題をしたり、授業中のグループワークの時間にワークスペースとして使えるエリアがあります。また最上階には大きめのテーブルが並ぶちょっとおしゃれな空間もあります。地下のカフェでは食事や飲み物を買えるほか、パーティーなどをする際に使うそう。
(デンマークでは学校でパーティーが開く文化が高校から既に始まっていて、ダンスやお酒で盛り上がります)

また授業のスケジュールや出席、提出物などはwebの個人ページで管理されています。アプリもあるので、高校生はみんなスマホで授業を管理しています。日本の大学みたいです。



英語の授業に潜入

いよいよ本題の英語の授業に潜入します。
見学させていただいたのは、高校1年生の英語の授業で、学年末のまとめとして行うグループ発表のために、グループごとにミーティングをする回でした。

今年度の授業は「アメリカの社会」がテーマ。見学させていただいたグループでは、アメリカのメディアでの人種の表現についてのプロジェクトをしていました。
4人のチームでレポートを作成しており、最終的には「人種を問わず使いやすいシャンプー」のCMを提案するというゴールに向けてディスカッションをしていました。アメリカには様々な人種の人がいます。髪質は人種によって違うのに、シャンプーのCMに出るのはさらさらのブロンドの白人ばかり。そこで、どんな髪質の人でも使えるシャンプーを、様々な人種、様々な髪質の人が登場するCMで表現しようという発想です。



4人はワークスペースに集まって、全員が自分のPCを使って、調べものやレポート・Powerpointの作成をしていました。見せてもらった資料にはマーケティング戦略について書かれていました。学ぶ内容ももはや大学では???という高度さ。
日本の大学入門レベルの内容を、高校1年生が英語で学んでいるんです。

議論はデンマーク語も使っていましたが、私たちがいる間や英語の資料を見ながら話すときは英語でディスカッションをしています。英語のレベルには差があると感じましたが、それでもどの生徒も問題なくディスカッションできていました。
自分の高校1年生の振り返っても、英語で議論をしたり、プロジェクトワークを自分たちで行うということは想像できなかったと感じます。


社会経験のある先生が教える使える英語

英語の先生にお話しを伺うことができました。
先生は大手スポーツブランドでお仕事をしたのち、高校の先生になったそう。私たちが訪問した学校は、ビジネスやイノベーションを扱う学校のため、民間企業でお仕事を経験した先生が多くいらっしゃいました。新卒で先生になる人は、デンマークではそれほど多くないと言います。

デンマークでは厳密な教育指導要領はなく、先生が自分で教える内容や方法を決められる範囲が大きいそう。そのため先生は「使える英語」を身に付けてもらうことを目標に、プロジェクトワーク中心で、文法もフォローしていくという方針をとっています。
デンマークでは日常会話レベルの英語は流暢に話せるようになる子がほとんど。そのため、仕事でもつかえるような議論、レポートづくり、発表といったスキルをまずはプロジェクトを通してつけること、そして身に付けるのが遅れがちな文法もちゃんと学ぶことが必要なんです。


まとめ

デンマーク人の高校を卒業した子たちが英語を日常レベルでもアカデミックのレベルでも使える理由を見つけることが今回のテーマでした。

1つは、学校でも英語をとにかく使うように設計されていることがポイントでした。早い段階からプロジェクトという経験を通して、自分たちで英語を自然に使わざるを得ない状況が作られていることで、経験を重ねていました。
日本ではアカデミックな英語やプロジェクトレベルの英語は大学生になってから本格的に触れる人がほとんどですが、早くから経験を積んでいることで、大学での議論にも自然と入ることができるというわけです。

またこの前提として、高校1年生の時点で基本的な英語を多くの高校生が使える状態になっているということも重要だと感じました。それ以前にあるテーマで話せる、意見を伝えられる、少々ぐちゃぐちゃの英語でも会話できるという共通認識がある、といった外国語でのコミュニケーションの基本が見についているからこそ、彼らは高校1年生からプロジェクトを通して英語を「使う段階」に入れているわけです。

デンマークのように高校生から英語を使わせて大学に接続したいと考えるのであれば、日本で高校1年生にプロジェクトをやらせればいいのかというとそういう訳ではなく、「使う段階」の前提づくりも進める必要があるのだと思いました。

今回の訪問を通して、日常レベルの英語を高校生まで学校と家庭で身に付け、高校で社会で使える英語を身に付け、大学での学問英語や社会人としてのビジネス英語に接続する。これがデンマークの英語学習のプロセスだということがわかりました。

非英語圏の中でも英語とまったく構造が違う言語を使う日本人にとって、英語学習が難しいのは当たり前。日本語の経済と文化がそれなりに発達しているから、英語の習得や教育に対する必要性やモチベーションがデンマークより低いことも当たり前です。
でもやっぱり英語ができればと思うことは今多いし、これからもっと増えていく。
だからこそ非英語圏の英語先進国から学べることは学んでいきたい!と思うんです。

いきなり日本全体の教育構造は変わりません。
だからまずは、この記事を読んだみなさんの英語との触れあい方が変わると嬉しいです。